第038話 チート機能が一つとは限らない
俺たちウィルが経営している企業のビルにやってきた。やり手社長らしく、コロニー内でもかなり大きなビルを構えている。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」
「社長のウィルに会いたい」
「アポイントメントはございますか?」
「コレットの借金の件で話があると言えば分かる」
「しょ、承知しました。しばしお待ちを」
受付嬢に用件を伝えると、彼女は慌てて耳もとのイヤホンみたいなものを触った。
「はい、はい、そうです。分かりました」
それは通信端末でウィルがいる場所に連絡を取っているみたいだ。
「確認が取れました。ご案内いたします。こちらへどうぞ」
「分かった。ありがとう」
受付嬢が連絡を取り終えると、彼女が受付から出てきて手で指し示した。礼を言って、俺たちは彼女の後についていく。
エレベーターに乗り、最上階にある社長室に辿りついた。
「やぁやぁ、待ちわびたよ」
扉を開けると、社長の執務机に向かうウィルに出迎えられる。
ただ、その笑みは何処か引きつっているように見えた。
何かあったのか?
「それで、何の用だい? 僕は忙しいんだけど?」
「決まっているだろ? 借金の返済に来たんだよ」
白々しいセリフを吐くウィルに、俺は威圧的な態度で返事をした。
「ふぅ……どうせハッタリじゃないのか? 身の程を弁えた方がいいよ?」
「そんなわけないだろ。コレット、見せてやれよ」
「う、うん」
バカにするように宣うウィルに、コレットは俺の指示に従ってポケットから携帯端末を開き、口座のページを見えるように手に持って突き出した。
「一、十、百、千、万……千万、一億……三億五千万」
ウィルが数えると、三億五千万ユラ以上の金額が振り込まれていた。
これでウィルの借金は全額返金できるはずだ。
「ふーん、ちゃんとそろえてきたみたいだね」
「ふふん、そうだろ?」
ウィルは確かに金額をある事を認めた。俺は勝ち誇ったように笑う。
「でも、ざーんねん。コレットの借金は三十億ユラになったんだ」
「そんなわけないだろ!!」
しかし、ウィルは俺の前で端末を開いて、あざ笑うように電子契約書を俺の前にちらつかせた。
こいつまた三日前と同じようなことをしやがった。
そっちがその気なら徹底抗戦だ。
「僕が三億だなんていった証拠はどこにもないだろ? こっちにはちゃんとした契約書が残っているんだ。僕たちの方が正しいに決まってるじゃないか?」
「はっ。証拠がない? いいだろう。見せてやるよ。完璧な証拠って奴をな」
逆に勝ち誇るウィルに対して、俺は口端を吊り上げた。
俺にはアイテムボックスと同じくらい素晴らしい機能を使えるんだよ。
「なんだって?」
「ほら、これが証拠だ」
俺は空中にとある映像を映し出した。
『それはね。君の借金が三億ユラになっていることを教えに来たのさ。そして、返済期限は三日。それまでに返せなかったら、君のすべては僕の物。せいぜい頑張ってみなよ。あははははっ』
それは、三日前にマテリアルギルドでこいつがコレットの借金の増額を言い渡しに来た場面だ。きちんと日付も乗っている。
「な、なんだこれは!! こんなの捏造だ!!」
その映像を見てウィルはあからさまに狼狽えた。
どう見てもこいつでしかないのに捏造は無理がある。
「私も同席していたから、マテリアルギルドの名に誓って間違いないわよ」
アメリアが後押しするように俺の流した映像を肯定した。
なぜこんな映像が取れたのかと言えば、これは俺がやっていた『DSO』に実装されていた録画機能がこの世界でも使用できたおかげだ。
俺が地球にいたころはVRMMORPGの動画を上げるのが、動画配信サイトではやっていた。ゲーム内では動画配信用の機能が実装されている。
この機能は、俺視点の光景と、客観的な視点からの光景を録画することができる。今回は客観的な視点からの映像を流したわけだ。
「うるさい、うるさい!! こうなったら、全員殺してやる!! 出てこい!!」
にっちもさっちもいかなくなったウィルは強硬手段に出た。
ウィルが端末を操作すると、部屋の両側の壁が開く。その中には先日俺を襲ったアンドロイドがひしめき合っていた。
「こいつらを殺せ!!」
『承知しました』
アンドロイドたちが一斉に俺たちに向かって来る。
「コレット、この三日の成果を見せてやれ」
「うん、分かった。フィジカルブースト!!」
実はコレットはずっとフィジカルブーストの魔法を練習していた。それがついに使えるようになった。
フィジカルブーストはゲーム内では五割増しがせいぜいだった。でも、リアル世界では魔力が多ければ多いほどその効果は上がる。
コレットはかなり大きな魔力を持っているので、その効果は絶大だった。
『ピーガガガッ……プツンッ』
『ザザザザァアアアアア……プツンッ』
『ギュイイイイイイッ……プツンッ』
目にも止まらぬ速さで戦闘アンドロイドを駆逐していく。コレットだけにやらせるのもあれなので、俺はコレットの背後から襲おうとする奴らを破壊した。
「あれだけいた最新鋭のアンドロイドがたった二人に全て壊されてしまうなんて……くそっ」
ウィルは悔しそうに俺を睨みつける。
「僕を追い詰めたことを後悔させてやる……」
――ドンドンドンッ
ウィルが捨て台詞を吐いた後、突然、社長室の扉が開いた。
「社長、大変です!!」
焦って入ってきたのはウィルの部下だった。
君の地獄はまだまだこれからだよ、ウィル君。
俺は一人ほくそ笑んだ。
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