第039話 そして、ある意味伝説へ……
「どうしたんだ?」
「ステラ・ネットを見てください!!」
ウィルが息を切らせた部下に声を掛けると、彼は懇願するように叫ぶ。
ステラ・ネットはキヴェト帝国全土を網羅するネットワーク。
「な、なんなんだ、これは!?」
ウィルが携帯端末を開くと、わなわなと手を震わせて目を見開いた。
「貴様!! 何をした!!」
「俺は特に何もしてないぞ?」
俺の方を睨みつけるウィルに、何食わぬ顔で口笛を吹いて顔を逸らす。
「これはどうなっている? なんでこの部屋の映像が流れているんだ!?」
「そりゃあ、生配信してるからに決まってるじゃん」
「この建物内での外部の人間のステラ・ネットへの接続は制限されているはずだ!!」
俺を問い詰めるウィルに適当に返事をすると、彼は更に喚き散らした。
「それができちゃうんだなぁ、これが」
「一体どうやって……」
「さぁ、どうやってだろうね」
このステラ・ネットへの接続が制限されている社屋内で配信出来ているのは、先ほどのゲーム時代の基本の配信機能を使っているからだ。
録画機能と同じで、第三者視点か配信者視点で自動的に撮影してくれる。視点は簡単に切り替え可能だ。
そしてこの機能は、配信サイトと連携することで直接生配信できる。
この機能はなんの使い道がないと思っていた。でもなんと、ステラ・ネット上にある巨大配信サイト『SpaTube』との連携が可能で、通信の制限を受けていようが、いつでもどこでも配信できてしまうというチート配信システムだったのだ。
俺はその機能を使って、ウィルの社屋に入ってからここまでの一部始終を配信していたわけだ。勿論、こいつがアンドロイドを使って俺たちを殺そうとしたところまでバッチリと映っている。
無名の俺では、俺だとそんなに集まらなかっただろうけど、ウィルの裏を暴露するようなタイトルを付けたおかげで、最初からある程度見に来てくれた。
それに、映像にはコレットも写っていたので、嗅ぎつけたファンが拡散し、閲覧者を急激に伸ばした。
そして、ウィルの醜態が映し出されたことで、SNSで爆発的に拡散され、さらに加速して今の状態に至る、というわけだ。
キヴェト帝国は星系をいくつも飲み込む巨大な宇宙帝国だ。その人口は地球の比じゃない。彼は億という規模の人間に一斉に自分の醜態を見せる羽目になった。
若手の実力のある社長のスキャンダル。どこもかしこもこぞって叩くだろう。
"うわぁ……あの社長のこと信じてたのに……"
"まさかこんな気持ち悪い人だとは思わなかった……"
"女の敵"
"死ねばいいのに……"
コメント欄はウィルのマイナスの意見ばかり。
"何あの子、めちゃくちゃ可愛い上に、強くてカッコいいんだけど!!"
"あの子は今売り出し中のSpaTuberのコレットちゃんじゃないか!?"
"いつもの魔法も凄いけど、今日も一段凄かった!!"
一方で写っていたコレットの人気がうなぎのぼりだ。
「おやおやぁ? このアンドロイド見覚えがあるなぁ? あっ、この前、コレットを襲ったものとそっくりじゃないか?」
「で、でたらめいうな!!」
俺がアンドロイドを持ち上げて、ニヤニヤと笑いながら言うと、ウィルは狼狽える。
大勢の人が見ている前だと、先ほどまでの勢いが感じられない。
「これでもそんなことが言えるのかな?」
俺は閲覧者たちにも見えるように先日の襲撃事件の様子を映し出した。
これも録画機能を使用して第三者視点で俺たちの様子を撮影していたものだ。事件の時にローブがはだけた下には、同じ型のアンドロイドだったのが鮮明に映っている。
"うわぁ……前からこんなことしてたのかよ"
"引くわぁ……"
"どんだけ陰湿なんだよ……"
コメント欄はそんな軽蔑で溢れていた。
「それにこの前なんて依頼を受けたら罠でさぁ。本当に殺されかけたんだよねぇ。これを見てくれよ」
俺は追い打ちをかけるように、あいつが残したビデオレターを撮影したものを後悔した。ウィルに対する批判のコメントが加速していく。
「社長!! クレームの電話が殺到しています!!」
「社長!! 取引先が今後の取り引きを全てなかったことにしてほしいと言って来ています!!」
「社長!! 会社の外でデモが起こっています!!」
『社長!!』
その直後、社長室の外から次々と部下たちが焦った様子で室内に入ってきた。
『社長、ガーディアンズの方がお見えです』
「……分かった……」
最後に、このコロニーの治安維持機構であるガーディアンズが動画の真偽を確かめるためにやってくる。
先ほどまで敵愾心をむき出しにしていたウィルも、これだけの目撃者と、ガーディアンズの訪れに、自分がどうしようもないほどに追い込まれていることを自覚したらしい。
俺はここで配信を停止した。
「ウィル兄、最後に聞かせて」
「……なんだい?」
ガーディアンズに連れていかれるウィルの背にコレットが問いかける。
「私の両親は本当に事故死だったの?」
「あはははっ。そうさ、君の両親を殺したのは僕さ!! あはははっ」
ついに開き直ったウィルがおかしそうに高笑いをしながら暴露した。
「ほらいくぞ」
ウィルは笑ったままガーディアンズのメンバーに連行されていく。
「うう……お父さん、お母さん……」
コレットは長年疑問だったことの答えが出て泣き崩れた。
「あなたたちも話を聞かせてもらいますよ?」
「了解」
アナベルさんがコレットを抱きかかえ、一緒に出入管理局へと向かった。
その日からしばらくの間、帝国中でウィルが話題となり、史上最高に恥をさらした犯罪者として伝説となった。
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