第040話 本来の目的
ウィルのことが片付いて、これでコレットも晴れて自由の身、とはいかなかった。
ウィルを捕まえた功績で、彼女のハンガーのお手伝いは免除されたけど、想定外だったのはコレットのファンが増えすぎたこと。
彼女は、悲劇のヒロイン、復讐を果たした美少女など、あることないこと書かれたり、ニュースに取り上げられたりした。そのおかげで彼女のチャンネル登録者数が激増して億を超えた。
それだけの数のファンがいれば、当然このコロニーの中の人が何人かいる。それにコレットは変装とかしてるわけじゃないので、どこの誰かなんてちょっと調べたらすぐに分かる。
「コレットちゃーん!!」
「次の配信はいつですか!!」
「サインくださーい!!」
そのせいでファンたちが彼女の家の前に集まってしまった。
ウィルの件は、もうちょっと考えるべきだったな……。
俺は自分の考えの足りなさを反省した。
「どうしよう、これじゃあ、外に出れそうにないよ……」
コレットが外の光景を見て表情を曇らせる。
俺の責任なのできちんと対処しないとな。
「ここは俺に任せておけ。マインドコントロール」
俺が唱えたのは暗示をかける魔法。これによってコレットとある程度面識がある人以外は、あかの他人程度に感じるようになるはずだ。
「あれ? 皆帰ってく」
「コレットに気が向かないようにこのコロニー全体に魔法を掛けた」
コレットは外のファンの動きを見て首を捻る。
俺の魔法を受けた外のファンたちは、今まで自分は何をしていたのかと首を振って各々散っていった。
「コロニー全体!? 相変わらず無茶苦茶だね、キョウの魔法は!!」
俺の言葉を聞いたコレットは、俺を化け物でも見るような目で見てくる。
「へへへっ。多分星系くらいなら余裕でいけるぞ」
「褒めてないからね!!」
照れたら、なぜか怒られた。
「お待たせ」
「話ってなんだ?」
仕事前にアメリアに呼び出された。
今日からコレットと一緒に船のパーツ拾いや採掘なんかをやろうと思ってたんだけど、何の用事だ?
「それなんだけど、ようやく許可が下りてね。二人のランクアップが決まったわ」
コレットもビギナーからミドルになるまで一年以上掛かったと聞いていた。
俺はまだ一カ月も経っていない。かなり速いランクアップだ。
「それはめでたいな。でも、ランクアップには時間がかかるって聞いていたけど?」
俺が隣に座るコレットの方に視線を送ると、彼女はコクリと頷いた。
「本来はね。でもあなたたちが持ってきた素材は尋常じゃない。上層部はあなたたちが持って帰ってきた素材の件を信じようとしなかったんだけど、ウチの父が、「キョウが脱退したら、他の所が得をしてウチが大損するけど、お前らはそれでいいだよな?」って脅したらしいわ」
「脅したのか……」
正直グレイさんの優し気な容姿からは想像ができない。
「勿論言い方はもっとオブラートに包んでいただろうけどね。あなた程の逸材を逃すなんて愚かの極みだもの。今後もご贔屓に頼むわよ?」
「分かってるって。コレットの件ではかなり世話になったしな。傭兵ギルドや商人ギルドに入ったとしても、ちょいちょい顔を出すようにするよ」
ウィンクするアメリアに、俺はしっかりと頷いた。
「それでいいわ。ただ、あなたにギルドカードを渡すのはまだ先よ」
「どういうことだ?」
俺は言っている意味が分からずに首を傾げる。
ランクアップはしたんじゃないのか?
「ミドル以上になるには必要な物があるの」
「それは?」
「船舶免許と宇宙船よ」
「あぁ、そういうことか」
アメリアの説明を聞いてようやく腑に落ちた。
確かにミドルランクからは依頼を受ける側じゃなくて、自分達でパーツ拾いや小惑星の採掘をしたり、惑星に降りての素材集めしたりするようになるのが普通だ。
それには自分の船が必要になる。船を運転するためには免許がいる。当然の帰結だった。ミドルランクだと認められないのは当たり前だな。
それにしても、今まではコレットのことをどうにかするので頭が一杯だったので、すっかり忘れていた。
やっと俺の目的のために動ける。
「分かった。俺はどうすればいいんだ?」
「試験には申し込んでおいたから、明日までにこれを読んでおいて。試験場所や受験票は端末に送っておくから」
「多いな……」
アメリアに渡されたのは数センチはある参考書を五冊。
こんな量をたった一日で覚えられるわけ……
「できないのかしら?」
「ふん、できらぁ!!」
アメリアの見下すような視線に負けられず、売り言葉に買い言葉で挑発に乗った。
「そう。それなら頑張ってね」
「ふふふふっ」
しかし、まるで俺がそう言うのが分かっていたかのように嘲笑うアメリア。コレットもおかしそうに笑っていた。
くっそ、嵌められた!!
後になって彼女が俺を焚きつけるためにわざと挑発したんだと気づいた。
「実技は当日どうにかして」
「はぁ……分かったよ……」
実技はさらに無茶ぶりだった。
まぁしょうがない。いいぜ、そのくらいやってやろうじゃん。
なんたって俺に魔法がついてるからな。
俺はコレットの船に乗って彼女を守りながら、早速勉強に取り掛かる。
「リーディング。メンタルブースト」
俺は五冊の参考書をパラパラとめくりながら魔法を唱えた。
リーディングは速読魔法。数百ページある参考書もあっという間に読める。メンタルブーストは精神面を強化してくれて、思考速度が速まり、記憶力が高まる。
俺はパラパラと読むだけで俺はその全てを記憶した。
本来なら問題集などをやって対策するのだろうけど、俺は参考書の中身を全て覚えているから問題ない。
「緊張するな……」
はずなのに、俺は柄にもなく緊張して中々眠れなかった。
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