第029話 俺は野菜の星の戦闘民族

 船が爆発した直後。


「あっぶねぇ~!! まさか船ごと爆破してくるとは思わなかった」


 まさかあんな強硬手段に出てくると思わなかった。

 ウィルの奴いかれてるんじゃないか? 


「シールドだけでも余裕だったな」


 俺は爆発の瞬間、体の耐久力をプロテクションで強化し、宇宙服のようにバリアで結界を作り、そのさらの外側にシールドで覆った。


 そのおかげで爆発に飲み込まれても無傷で切り抜けることができた。しかもシールドに傷一つ付いていない。俺のシールド鉄壁過ぎる。


「さて、ここからどうしたものか」


 俺は今、生身で宇宙に放り出されてしまった。


 でも、幸いバリアとシールドがあれば宇宙空間でも活動可能らしい。


「エアーコンディション」


 しかも、密閉空間内の空気の状態をコントロールできる魔法を使えば、酸素も問題なし。


 まさか宇宙で船なしでも活動できるとは思わなかった。俺はどこかの野菜の星の戦闘民族の末裔なのかもしれない。


「おっ」


 俺が見つけたのは船の残骸。かなり大きな爆発だったけど、それなりに大きな破片が残っている。


「あっ。ちょうどいいから試してみよう。インパクト!!」


 俺は船の残骸があるところまで衝撃波を起こす魔法で移動する。


「どれどれ。リペアッ」


 ギリギリまで接近すると、残骸に手を翳して魔法を唱えた。


 その瞬間、周辺の船の残骸が吸い込まれるように集まってきて、光を放ちながら元の部品の形に修復され、組み立てられ始める。


 まるでビデオを早送りするように船の形が形成されていく。そして、気づけばあっという間に元の状態を取り戻した。


「おおっ。こんなバラバラな船まで直せるのか。これならコレットの船も直せそうだな」


 俺はまだまだ自分の魔法を舐めていたらしい。


「これだけの宇宙船なら買った人物からウィルの特定ができるかもしれない。持って帰ろう。アイテムボックス」


 運転できればいいんだろうけど、宇宙船の運転には免許が必要だ。


 俺は免許なんて持っていないので、船をアイテムボックスに仕舞った。かなり大きな船だったけど、問題なくボックスの中に入った。しかも一枠分しか使っていない。


 アイテムボックスマジですげぇな。

 

「俺は今、どの辺りにいるんだろう?」


 頭の中でマッピングした地図を思い浮かべる。すると、拠点として設定したコレットの家を中心とした宇宙の地図が頭の中に表示された。マッピングされている部分だけが明るくなっている。


 ワープによって星系外まで来ていた。


「結構距離があるな」


 インパクトの魔法で衝撃波を発生させれば、コロニーまで帰ることもできる。でも、それは面倒だし時間が掛かりすぎる。


 リアルで使うと、どうなるか分からないからあまり使いたくはなかったけど、拠点に戻るにはこれが一番速い。


「リターン!!」


 俺は魔法を唱えた。


 リターンは、自分が拠点として設定した場所に転移できる魔法。


 この世界のワープは、亜空間内を超光速航行することで距離を短縮する移動方法だ。だから、一瞬で移動できるわけじゃない。


 それに比べて一瞬で目的地に移動できる転移魔法はチート過ぎるだろう。


 俺の視界はすぐに切り替わった。


「成功か……」


 切り替わった先は、コレットの家の俺の部屋だった。


 壁に挟まったり、次元のはざまに落ちたりというアクシデントはなかった。


 転移魔法が問題なく使えるなら、今後の移動が物凄く楽になるな。


 ――ピンポーンッ


 俺が帰ってきた直後、家に誰かが来たことを告げる音が鳴る。


「あの野郎……」


 窓から外の様子を窺うと、やってきたのはウィルだった。おそらく俺が死んだことを伝えにやってきたんだろう。


 でも、そうは問屋が卸さないぞ。


「脅かしてやろう。インビジブル」


 俺が死んでいると思っているはずなので、急に出てきたら絶対驚くはず。

 窓から庭に出て、ウィルの背後からタイミングを見計らう。


「やぁ、コレットおはよう」

「う、うん、ウィル兄、おはよう。それで、いったいなんの用なの?」


 コレットが体を隠すように扉を開けて、怯えながらウィルの顔を見つめていた。


 うわぁ……ウィルの奴、滅茶苦茶警戒されてるじゃん。

 あの昨日の様子じゃあ、彼女の反応も仕方ないよな。


 この様子をちゃあんとおかないと。


「ああ、それなんだけどね。ついさっき部下から連絡があって、キョウ君が乗っていた船が爆発したらしいよ?」

「え?」


 ウィルの言葉を聞いたコレットが完全に固まっている。

 身近な人が突然いなくなるなんて誰も想像もしてないもんな。


「だから、キョウ君が乗っていた船が爆発したんだ。彼は亡くなったんだよ」

「嘘っ!! キョウに限ってそんなことありえないよ!!」


 俺の生存を信じてくれるコレット。

 コレットの前ではバンバン魔法使ってたから超人みたいに思われてるよね。

 彼女は正しい。俺チートだし、実際生きてるし。


「僕は嘘は言っていないよ。彼が乗っていた船が爆発したところに、僕の会社の船が居合わせてね。船籍を照会したら、マテリアルギルドの依頼を出しているのが分かったんだ。そして、ハンガーで確認したら、キョウ君がその船に乗ったのは間違いないんだよね」

「そんな……」


 ウィルの奴。たまたま、だなんて全く白々しい。

 全部お前が仕組んだことだろうが。


「君には船もなくなったし、キョウ君も居なくなった。もう借金を返すのは無理じゃないか?」

「それは……」


 ウィルがコレットを追い詰めていく。

 コレットも最初の勢いがなくなってきた。

 そろそろ頃合いだ。


「昨日も言った通り、君が僕と結婚すれば全て丸く収まるよ?」


 ウィルの言葉は、悪魔との契約との言葉みたいだった。


「私は――」


 コレットはそんなクソみたいな提案に乗ろうとした。

 しかし、俺がそんなことをさせるわけがない。


「やれやれ、人を勝手に殺すのは止めてくれないか?」


 俺はそう言って姿を現わすと、ウィルは幽霊でも見たような顔になった。はははっ。いい気味だ。


「キョウ!!」

「よう、ただいま。コレット」


 コレットは俺に抱き着いてきた。俺はコレットの頭をポンポンと撫でて落ち着かせる。


「どうした? 幽霊でも見たような顔をして」

「バ、バカな!? なぜお前がここにいる!?」


 未だに固まっているウィルに話しかけると、狼狽した様子で叫んだ。


 俺は確実に船に乗っていたし、爆発に巻き込まれたのも間違いない。

 ウィルのような反応になって当然だよな。

 俺も爆発に巻き込まれた奴が後ろから姿を現わしたら絶対にビビるわ。


「俺がここにいることの何がおかしいんだ?」

「お、お前は確かに死んだはずだ」


 俺が首を傾げると、ワナワナと体を震わせながら俺に指をさすウィル。


「なんでそんなことをお前が知ってるんだよ」

「それは俺が手を回して出した依頼に貴様が――」


 ウィルは気が動転しすぎて、言ってはいけないことを途中まで言いかけた。


「俺が手を回した?」

「!? 失礼する!!」


 それを聞いていたコレットが俺の胸に埋めていた顔をウィルに向けた。奴はしまった、という表情をして、足早に去っていった。


 あんなことを口走ってしまうなんて、ウィルの奴相当慌ててたんだな。


「ふぅ。それじゃあ、今回の依頼の件をギルドに報告しにいくか」

「今日は遅いし、明日でいいんじゃないかな」

「それもそうか」


 ウィルの背中を見送った俺たちは、そのまま眠ることにした。

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