第028話 勝利の確信(第三者視点)
◆第三者視点◆
「あははははははっ。見なよ!! 調子に乗って僕のコレットに近づいたあげく、彼女の前で良い恰好なんてするからさ!! あはははははっ」
何十畳もある部屋で質の良いソファに腰かけて、巨大なディスプレイを眺めながら高笑いをする男。金髪碧眼の美男子、ウィルその人だ。
彼が見ているディスプレイにはとある宇宙船が爆発する瞬間が写し出されていた。
その船はキョウが依頼で乗っている船。ウィルは爆発予定地の近くにあらかじめ自身の会社の船を先行させて、爆発の様子を取るためにカメラで撮影していた。
「あの中に乗っていたら木っ端微塵だよね。これでコレットに近づく悪い虫はいなくなった。汚らわしい人間が近づくだけで、純粋なコレットが穢れてしまうからね。もうそんな人間はいないと思っていたけど、これからはずっと一緒にいてあげないとね」
ウィルは自分が出張に行っている隙にキョウのような人間が現れるとは思っていなかった。
もうコロニーには女性の知り合いしか残っていないし、コロニー内の男たちはウィルの怖さをよく知っているからだ。
しかし、今回キョウのような人物が現れたことで、ウィルは焦って計画を急ぐこと決めた。
宙賊に関してもウィルが情報をリークしたもの。彼らがコレットを連れ去ったところにウィルが颯爽と助けに行く。そういう筋書きだったのに完全に邪魔された形になった。
ウィルにとってキョウは本当に晴天の霹靂と言っていい存在。この段階で排除できたことを心の底から喜んだ。
「後はあの家を壊すだけだね」
今のコレットにはもう、コレットの両親との思い出が詰まったあの家しか残っていない。あの家も壊せば、きっと僕のところにやってきてくれるはず。
ウィルはそう考えていた。
「計画は進んでいるのか?」
控えていた部下に声を掛ける。
「はい、捕まえた生物たちはいつでも準備ができています」
「事故で壊れたんじゃ仕方ないよねぇ」
部下の言葉を聞いたウィルは満足げな表情を浮かべてクツクツと笑った。
「でも、計画を実行する前に、ちゃあんとあのゴミムシが死んだことを教えてあげないとね。コレットの家に行くよ!!」
「はっ。承知しました」
ウィルは膝に手を当てて立ち上がると、部下に指示を出して部屋の外に出る。
「さて、一体どんな顔をしてくれるのかなぁ。きっと喜んでくれるよね。楽しみだなぁ」
その顔には常軌を逸した欲望が渦巻いていた。
――ピンポーンッ
ウィルはコレットの家に着くなり、インターホンを押して彼女を呼び出す。
『はい、ウィ、ウィル兄? 一体どうしたの、こんな時間に』
コレットは、もう日が暮れる頃に突然来訪してきたウィルの姿に、困惑気味に返事をする。
彼女はウィルが自分との結婚の話を持ち出してきたことで距離を測りかねていた。
今までのウィルではない、全く別の存在のように感じたからだ。
「君に直接伝えたいことがあってね」
『分かった。ちょっと待ってて』
ただ、こんな時間に家に直接来るくらいだ。よほど重要な事だと思ってコレットは玄関の扉を少し開けて顔を出す。
「やぁ、コレット。おはよう」
「う、うん、ウィル兄、おはよう。それで、いったいなんの用なの?」
昨日のことなどなかったような態度のウィルに、コレットは怯えながら尋ねた。
「ああ、それなんだけどね。ついさっき部下から連絡があって、キョウ君が乗っていた船が爆発したらしいよ?」
「え?」
コレットはウィルの言葉の意味を脳が理解するのを拒み、間抜けな声を漏らす。
ウィルの顔には抑えきれない笑みが浮かんでいた。
「だから、キョウ君が乗っていた船が爆発したんだ。彼は亡くなったんだよ」
「嘘っ!! キョウに限ってそんなことありえないよ!!」
言い直すウィルに、コレットは扉をあけ放ち、反発するように叫ぶ。
コレットはこの二週間、ウィルの圧倒的な力を嫌という程実感していた。宙賊を壊滅させ、色んな物を一瞬で直し、どんな汚れも綺麗に落とす、まるでおとぎ話に出てくるどんな願いも叶えてくれる魔法使いのようなバカげた存在。
キョウの魔法は万能だ。あんなに理解を超えた人が死ぬとは思えなかった。
「僕は嘘は言っていないよ。彼が乗っていた船が爆発したところに、たまたま僕の会社の船が居合わせてね。船籍を照会したら、マテリアルギルドの依頼を出しているのが分かったんだ。そして、ハンガーで確認したら、キョウ君がその船に乗ったのは間違いないんだよね」
「そんな……」
しかし、キョウが船に乗っていたのは確実。その船が爆発したのだとしたら、キョウは確実にその爆発に飲み込まれているはずだ。
船の爆発するほどの大事故の中では、流石の彼も死んでいるかもしれないと、コレットは不安になって言葉を失った。
「君には船もなくなったし、キョウ君も居なくなった。もう借金を返すのは無理じゃないか?」
「それは……」
確かにウィルの言う通りだ。今のコレットには頼れる者はウィル以外に誰もいない。しかし、コレットは素直に彼に頼ることはできなかった。
なぜなら、コレットはウィルの異常性をおぼろげながら感じ取っていたからだ。
昔から自分に近づく異性がいつの間にかいなくなっていた。自分の近くにいたのはウィルと父親のみ。そして両親が死んだ後は、ウィル以外の異性はすぐにいなくなった。
それは子供でも分かるくらいに余りに不自然だった。
「昨日も言った通り、君が僕と結婚すれば全て丸く収まるよ?」
借金を返せなければ、何をされても文句は言えない。それに比べれば、ウィルと一緒になるのがマシかもしれない。
「私は――」
そう思ってコレットは彼の申し出を受け入れるようとした。
「おいおい、人を勝手に殺すのは止めてくれないか?」
しかし、そこにいるはずのない人物の声が響いた。ウィルの顔には驚愕が、コレットの顔には歓喜がそれぞれ浮かんでいた。
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