第027話 主人公、死す!?
無人タクシーに乗った俺たち。
「あんな啖呵を切ってたけど、大丈夫?」
「ああ、借金返済のことか」
コレットが思い出したように尋ねてくる。
「うん、どうするの?」
借金を返済するには船が必要だ。つまり、新しい船を買うか、壊れた船を修理するかだ。正直壊れた船は見るも無残なほどに壊れていて直せそうにない。
……いや……待てよ。修理か。
リペアを試していなかったな。
無意識にあれだけボロボロになっているのなら直せないと思っていた。でも、試してみる価値はある。直らなかったら、その時にまた考えよう。
「船をリペアで直せるかもしれない」
「ホントに!?」
コレットは俺の言葉を聞いて驚く。
彼女もあそこまで壊れた船まで直せるとは思っていなかったらしい。ただ、ぬか喜びになる可能性もあるし、他にも解決しないといけない問題がある。
「ああ。だけど、確証は持てないし、直してもまた壊される可能性がある。だから、元を断とうと思う」
「どういうこと?」
彼女は不思議そうに首を捻った。
「今回コレットの船を壊したのは多分ウィルだ。それとこの前のアンドロイドもな」
「え? ホントに!?」
「恐らく。そうじゃなきゃ、突然あんなことを言い出すはずがない。それに、コレットの船だけ狙われるなんて不自然すぎる」
「確かに……」
最初は驚いていたコレットも思い当たる節があるのか、俺の説明に納得したように呟く。
ウィルがいる限り、コレットに平穏は訪れない。まずはあいつをどうにかしなければならない。
しかし、あいつは社会的強者。決定的な証拠を掴む必要がある。今は少しピンチだけど、逆にチャンスでもある。
今まで証拠を掴ませなかったウィル。でも、急にコレットの近くに俺が現れたせいで焦ってる。だから、早急にことを進めようとして、こんな強硬な手段をとったに違いない。
もしかしたら、どこかで尻尾を出すかもしれない。
そこを確実に捕まえる。
「あのハンガーはまだ使えるのか?」
「うん、大丈夫」
「それなら辛いだろうけど、しばらくあのまま置いててくれ」
「分かった」
コレットには悪いけど、船は今のままにしてもらう。
俺はコレットを家に送り届けた後、依頼人の所に向かった。
「あ、キョウ、指名依頼入っているわよ」
依頼を済ませてマテリアルギルドに戻るなり、アメリアが俺に知らせる。
「依頼内容は?」
「採掘の手伝いね。日程は明日から二日間」
「ゲンゾか?」
「いえ、ゲンゾから評判を聞いてぜひお願いしたいということらしいわよ」
採掘の手伝いを頼んできたのはゲンゾくらいだ。てっきりあいつかと思ったけど、今回は別人からの依頼らしい。
ゲンゾから評判を聞いているということは仲間内の誰かなんだろう。あいつの仲間なら受けることに否やはない。
「そうか。分かった。他の指名依頼は別の日に回して、受けておいてくれ」
「了解。依頼内容は送っておくわね。それと、コレットは大丈夫?」
手続きが終わると、アメリアが俺に問いかける。
彼女にも当然話が伝わってるか。
「ああ。今はウチで休んでいる」
「そう……よろしくね」
「分かってる。任せておいてくれ」
俺は、心配そうな彼女にしっかりと頷いて家に帰った。
「明日泊りがけで依頼で採掘に行ってくる」
自室のベッドに座っているコレットに指名依頼の件を伝える。
「分かった。心配しなくても大丈夫だよ」
「悪いな。少しでも楽になるように魔法を掛けよう。リラクゼーション」
不安そうな笑顔で笑う彼女に、俺は興奮状態を落ち着かせる魔法を使った。
コレットの表情が安らいでいく。
「ありがとう。すっごく気持ちが楽なったよ」
コレットはさっきよりも余裕のある笑みを浮かべた。
「それは良かった。おやすみ」
「うん、おやすみ」
彼女が寝入ったのを見届けると、俺も自室でベッドに入った。
明くる日。
『なんだ?』
「依頼を受けてきたものだけど」
『入れ』
指定された時間に船の前で依頼人に連絡する。
船はゲンゾの船くらいの大きさで、洗練されたフォルムをしていてかなり高そうな印象だ。
応答した依頼人は、端的な言葉だけを発して俺を船に招き入れた。内部はかなり品のある造りになっていて、依頼人のこだわりを強く感じる。
船内では、フードとマスクを被り、顔を完全に隠している人物が待っていた。
なんだ、この滅茶苦茶怪しい人物は……でも、素材屋には過去に後ろ暗いことをしていた人間もいる。この人もそういう過去を持っているせいで、顔を隠しているのかもしれない。
「俺はキョウ・クロスゲート。今日はよろしく頼む」
『よろしく』
勝手に納得して自己紹介をすると、相手は名乗ることなく挨拶を返しただけ。その声はかなりくぐもっている。
「他のメンバーはいないのか?」
『いない』
ゲンゾでさえ二人仲間がいたからこの人も仲間がいるのかと思って辺りを見てみたけど、この人以外見当たらない。
確認してみたら一人だという。一人で採掘作業をするなんて大変だろうに。過去の関係で、仲間や伝手がないのかもしれない。
俺は勝手に歩き始めた彼の後についていく。
『座れ』
コックピットもかなり高価な設備が搭載されているのが分かる。明らかにゲンゾの船の設備の一段か二段くらい上だ。
それくらい洗練された設備だった。
思えば、船外も船内もまるで新品だ。もしかしたら、最近船を買い替えたばかりなのかもしれない。
だからこそ、元を取るために評判の高い俺を呼んだのかもしれないな。その期待に応えられるように頑張らないと。
俺の思考をよそに、男は何も言わずに船のエンジンを始動させて、宇宙に飛び出した。
「目的地までどれくらいだ?」
『八時間だ』
「了解」
依頼人はそれ黙ってしまって何も話す様子はない。俺は暇なので端末をいじって時間を潰す。
――ブゥウウウン……
八時間経った頃、ワープが完了して、通常の宇宙空間に出た。そして突然エンジン音が消える。
「ん? 着いたのか?」
端末から顔を上げると、あたりには小惑星のようなものは見当たらない。
マスクの男がカタカタと操縦席の端末をいじる姿が目に映った。その直後に、モニターにウィンドウが立ち上がって人の姿が浮かび上がる。
『やぁ、元気かい?』
それは金髪碧眼の男ウィルだった。
なんでこいつがここに?
まさか……!?
『これは録画だから返事はできないので単刀直入に言おう。君には死んでもらう』
「くそっ。はめられた!!」
ウィルの言葉を聞いた俺は驚愕した。
こんなに早く動くとは予想外だった。しかも、こんな大胆なやり方で。やっぱりウィルはかなり焦っていたみたいだ。
そうじゃなきゃ、こんなにリスクの高い橋を渡るはずがない。
『君は、なんで? そう思っているかもしれない。これは、僕のコレットに手を出した報いだよ』
「やっぱりそういうことか……」
ウィルは初めて会った時から俺に敵意を持っていた。
こいつはずっとコレットに歪んだ独占欲を抱いていたわけだ。突然現れた俺に嫉妬して亡き者にしようとしている。どこのヤンデレさんだよ。
『今日はコレットと甘~い一夜を過ごすことにするよ』
俺を煽るように見下した表情で勝ち誇るウィル。
『もう会うことはないだろうね。ばいばい。来世は良い人生になるといいね。あっ、ちなみにこの録画は自動的に消滅するから』
「あの野郎……!!」
最後に醜悪にその顔を歪ませて手を振る姿で録画が終了した。
絶対許さない。証拠は残らないだぁ? 目にもの見せてやる!!
『爆発三秒前』
俺が内心で気炎を上げていると、依頼人が不穏なことを言い出した。この船がウィルの罠だったというのなら、この依頼人もあいつの側の人間なんだろうな。
いや、このくぐもった声はもしかしたら……。
「フィジカルブースト」
俺は依頼人に近づき、その衣服をはぎ取った。その下にあったのは俺を襲ってきたアンドロイドに近いロボットの姿だった。
「そういうことか!! ちっ」
ロボットは俺が近づいてきたのをいいことに、抱きしめて身動きが取れないようにする。フィジカルブーストで振りほどいたけど、そのほんのちょっとの時間が命取りだった。
『……一、零』
――ドォオオオオオオンッ
カウントダウンが進み、目の前で爆発が起こる。
――ドォオオオオオオンッ
「うわぁああああああああっ!?」
それと同時に後ろでも爆発が起こり、俺は逃げられないまま飲み込まれてしまった。
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