第016話 ペット()
「はーはっはっはっ!! 今回はマジで死ぬかと思ったぜ!!」
大笑いして俺の背中をバシンバシンと叩くのはテンダだ。凄く痛い。
「笑いごとじゃないだろ。俺がいたからよかったものの……」
「本当に助かったわ。お前がいなかったら俺は間違いなく死んでいただろうぜ。ぜひ礼をさせてくれ。何か欲しい物はないか?」
俺が睨みつけてもテンダは全く意に介そうとしない。
欲を言えば欲しい物は沢山あるけど、欲しい物は自分で手に入れてこそ面白い。
「報酬さえ払ってくれればそれでいい」
「欲のない奴だ。まぁいい。何かあったら言ってくれ。できる限り力になるからよ」
「その時は頼むよ。これにサインを頼む」
「おう」
俺が携帯端末を渡すと、テンダは自前のタッチペンで書き込み始める。
「そういえば、なんで人手が足りなかったんだ?」
ふと、気になったので聞いてみる。
「いや、なんだか知らねぇが、コロニーからメンテナンスロボットの修理依頼が頻繁に入りやがってな。細々とした修理まで手が回らなかったんだよ」
メンテナンスロボットがそんなに壊れるなんて不思議だ。
原因は一体なんなんだ?
「何があったんだろうな」
「なんだか知らねぇが、何かと戦ったみてぇにぶっ壊されてたな」
俺の言葉にテンダがふと思い出したように返事をした。
メンテナンスロボットが何かと戦うなんて異常事態だ。
「気になるな」
「まぁ気にしてもしょうがねぇさ。俺らは仕事をこなすだけだ。ほらよ」
「それもそうだな」
確かに俺たちが気にしたところでどうにかなる問題じゃないか。
テンダから端末を受け取った俺は、マテリアルギルドに戻った。
「はぁ……もう終わったのね……」
「おう」
中に入ると、アメリアにうんざりしたような顔をされた。
「はいはい……って何よこれ……最高評価、追加報酬、この二つは分からなくはないけど、二週間はかかる作業を十分程度で終わらせた上に、暴走する警備ロボットを素手で止めてくれた? 意味わからないわ……」
アメリアは、端末を操作して完了報告を見て唖然とする。
報告書に書かれているのは俄かには信じがたい内容だからなぁ。
「俺って結構格闘技もいけるみたいでな」
「ふーん。なるほどね。どうせこのまま次の依頼を受けるんでしょ?」
話を聞いていたアメリアは何かを思いついたように俺に尋ねる。
「まぁな」
「それじゃあ、この依頼受けてみない?」
アメリアはニヤニヤした笑みを浮かべながら俺に依頼内容を送ってきた。
「ん? ペットの世話?」
「ええ」
そこには確かにペットの世話と書いてる。
裕福な家庭で飼っているペットの世話が大変だから手伝ってほしいという内容だ。
別におかしな点はなさそうだけど……。
「なんで今の流れでこの依頼になるんだ?」
「それは行ってみれば分かるわよ」
アメリアは俺の疑問に思わせぶりな返事をする。
「ふーん、そうか。分かった。その依頼受けるよ」
「一応言っておくけど、誰も達成していない依頼だから覚悟だけはしていってね」
「了解」
ペットの世話で皆がキャンセルするって一体何が待ってるんだ……?
まぁなんとかなるだろう。
俺は彼女に手を振ってマテリアルギルドを後にした。
「ここでいいのか?」
俺は依頼書に書いてあった場所にやってきた。
マップ上の住所もここで間違いはないし、他にそれらしい建物も見当たらない。だから目の前の家に違いないんだけど、それはあり得ない程の大邸宅だった。
土地に限りがあるこのコロニーで、陸上競技場のような庭がある。裕福にも程があるだろう。本当にこの家の人がマテリアルギルドに依頼なんてしたんだろうか。
俺は疑問に思いながらも入り口のインターホンを押してみる。
『はい、どちら様でしょうか』
すると、渋い男の声で丁寧な返事があった。
「マテリアルギルドからの依頼を受けてきたんですが」
『お話を伺っております。今門を開けますので、少々お待ちください』
相手の雰囲気からなんとなく丁寧な言葉で用件を伝えると、すぐに門が開く。
この辺りは地球とそんなに変わらないな。
『お入りください』
「分かりました」
彼の指示に従って敷地に足を踏み入れる。
「ようこそ、いらっしゃいました」
しばらく歩いていると、白髪をオールバックにして真っ黒な燕尾服を着ている人物が、俺に近づいてきて恭しく頭を下げた。
この時代にもいるのか執事って……。
「あ、はい。キョウ・クロスゲートと申します。よろしくお願いします」
有無を言わさぬ気高いオーラによって丁寧な挨拶を返してしまう。
「これはこれはご丁寧にご挨拶いただきありがとうございます。この家の執事をしております。ジャンと申します。ご案内させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「勿論です」
「それでは、こちらへどうぞ」
ジャンさんに連れられてやってきたのは庭の奥の方。そこにはとんでもなく頑丈そうな檻が用意されていた。その大きさはコレットの家くらいある。
そして、檻の隙間から見えてはいけないものが色々はみ出していた。
「もしかして……ペットってあれですか?」
「はい、テンターク様です」
俺が恐る恐るジャンさんに尋ねると、予想通りの答えだった。
それはどう見ても触手が寄り集まってできた謎の生命体だった。
あれがペットってどういうことなんだよ!!
俺は心の中で突っ込むしかなかった。
「それで……お世話って一体何をすればいいんですか?」
「それは餌を上げたり、遊んであげたりですね。今までの方は誰も最後までできませんでしたが、あなた様ならできるとマテリアルギルドから太鼓判を押されておりますので、期待しております」
「あのやろう……」
ジャンさんの話で、アメリアがあることないこと彼に吹き込んだことを知った。高笑いするアメリアの顔が空に浮かんで見える。
後で絶対泣かす!!
俺は固く誓った。
「何か?」
「いえ、なんでもありません。もし襲い掛かってきた場合は、多少躾けても構いませんか?」
一応何かあった時のために確認だけは取っておかないといけない。
「そうですね……テンターク様が怪我をしたりしなければ構いませんよ」
「分かりました」
ジャンさんは少し考え込んだ後で答えを出した。
よし。言質が取れたので、これで心置きなく相手をすることができる。
「いかがいたしますか? ここでキャンセルいただいても構いませんが」
「問題ありません。最後までやり遂げてみせます」
「それでは鍵をお渡しします。餌は隣の小屋にある物をあげてください」
答えを聞いたジャンさんは、宜しくお願いします、そう言って去っていった。
「よし、第一印象は凄く大事だ。ガツンといってやろう!!」
俺は拳を突き上げて意気揚々と檻のカギを開けた。
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