第015話 暴走を止めろ

 次の日。


「それじゃあね」

「ああ。また後で」


 俺とコレットは今日も別行動。


「アメリア、こんにちは」

「キョウじゃない。いらっしゃい。今日も依頼で良いのよね?」


 今日もマテリアルギルドで昨日と同じように挨拶を交わす。

 アメリアも二日目にしてすでに分かっているとでも言いたげな様子で聞いてきた。


「ああ。あ、そういえば、家電とかの修理やメンテナンスとかもできそうだ。依頼の検索範囲を広げてもらっても構わないぞ」

「了解。そうねぇ……人手が足りない修理工場での手伝い、なんてどうかしら?」

「おう。それでいい」


 話を聞いたアメリアが、早速お誂え向きの依頼を探してくれる。俺に否やはないので、引き受けて現場に向かった。


「おう、坊主が依頼を受けてくれたのか?」

「ああ。昨日は助かった。俺はキョウという。よろしく」


 現場に向かう、とつなぎを着た小麦色に焼けた肌の男が俺を出迎えてくれる。その男は、昨日俺に依頼人との連絡方法を教えてくれた人物だった。


「いや、気にすんなって。俺はテンダってもんだ。一応ここの代表なんかやっている。よろしくな。早速で悪いんだが、修理を手伝ってもらいたい。最近色々あって人手が足りなくてな。ギルドが寄越したってことはそれなりにできるんだろうが、どの程度のことができる?」


 自己紹介も早々にすぐに本題に入る当たり、大分切羽詰まった状態みたいだな。少し話をしてみたかったけど仕方ない。


「大体どんなものでも直せると思うぞ」

「……そうか。ついてきてくれ」

「了解」


 テンダは俺をじっくりと観察した後で頷いて俺を先導する。俺はその背中を追った。


「キョウにはこの倉庫の中の物を任せる。期限は一週間だ。設備は自由に使ってくれ。いけるか?」

「ああ、問題ない」

「おお、頼もしい返事だな。任せたぞ」


 一つの倉庫に案内されると、そこには修理待ちの機械が溢れかえっている。テンダは俺の肩を叩くと、倉庫から出ていってしまった。


「それじゃあ、さっさと済ませるか。リペア、クリーンッ!!」


 俺は工場内にあるすべての機器に意識を向けて魔法を発動させる。眩い光と共に機器が徐々に正常な状態へと戻って行く。


 ものの数十秒で全ての機器が新品同様の輝きを取り戻していた。


「これでよしっと!!」


 俺は全体を見回して満足する。


「な、なんだこりゃああっ!? どうなってんだ!?」


 後ろからさっき別れたばかりのテンダの声が聞こえてきた。振り返ると、テンダは顎が外れそうなほどに驚愕していた。


「おう。修理は終わったぞ?」

「おいおい、眩しいと思ってきてみれば、どうなってんだ、これは。頼んだのはついさっきだぞ?」


 未だに心ここに在らずの様子のまま、俺に質問するテンダ。


「俺に掛かればこのくらい簡単なんだよ」

「はぁ……まぁそうだよな。すまねぇが、もう一つの倉庫もお願いできねぇか?」


 俺が何も言うつもりがないのを理解したテンダは、ため息を吐いた後で、申し訳なさそうに俺に頼む。


 俺としては昨日の件もあるし、かなり忙しそうだから、礼も兼ねて手伝おうと思う。


 ただ、一つだけ言っておかなくちゃいけないことがある。


「別に構わねぇよ。覗き見しないのならな?」

「分かった分かった。絶対覗いたりなんてしねぇから頼む」


 俺は口端を吊り上げて言うと、テンダは両手を挙げて降参のポーズをしながら返事をした。


「よし、取引成立だな。次の倉庫に連れてってくれ」

「おう」


 俺は次の倉庫に案内され、一分もかからずに作業を済ませた。


「いやぁ、今日は本当に助かった。これでなんとか今いる人員で回せるわ」

「いやいや、気にしなくていい。昨日の礼だ」


 テンダは本当に嬉しそうに笑う。こんなに喜んでもらえるのなら手伝った甲斐がある。


「はっはっはっ。まさかちょっとしたおせっかいがこんなにデカい礼になって返ってくるとは思わなかったな。また何かあったら頼むわ」

「ああ。その時はマテリアルギルドに依頼してくれ」


 俺たちは挨拶をしてその場で別れようとした。


 ――ドォオオオオオオオオンッ


 しかし、突然巨大な爆発が起こって俺は振り返る。そこには天井が吹き飛んで火の手が上がる倉庫があった。


「お頭!! 修理中の警備ロボットが暴走しやがった!!」

「なんだと!?」


 俺たちの許に社員の一人が必死に走ってきて状況を知らせる。テンダの驚きようを見る限り、かなり状況は逼迫しているようだ。


 燃え盛る炎の中から何かが姿を現わす。それは四本足の蜘蛛みたいなロボットだった。


 体高は一メートル程で然程大きくはない。でも、倉庫の屋根が破壊されたところを見ると、人なんて一瞬で殺せるくらいの火力の兵器を積んでいるに違いない。


「ちっ。キョウは逃げろ!! お前はすぐにうちの警備ロボットを集めろ!!」

「うっす!!」


 俺を逃がそうとするテンダ。社員はテンダに言われてすぐに駆け出した。


「どうするつもりだ?」

「俺がなんとか時間を稼ぐ!!」


 テンダは俺の質問にあり得ない返事をする。

 あの火力は絶対生身でどうにかできる威力じゃない。

 時間なんて十秒だって稼げないはずだ。そんなのは只の無謀だ。


「おい、馬鹿。死ぬつもりか?」

「俺の命一つで警備ロボットが来るまでどうにかなるなら安いもんだ。いいから行け」


 しかし、テンダの決意は固いらしく近くにあった鉄の棒と船のパーツを盾にして警備ロボットに立ち向かおうとする。


 無謀ではあるけど、俺はこういう人間は嫌いじゃない。


「はぁ……あんたみたいな奴を死なせられるか。ここは俺に任せておけ」

「お、おい。止めろ!!」


 俺は静止も聞かずに警備ロボットに向かって走り出した。


「フィジカルブースト」


 強化魔法を掛けてさらに加速する。


『警告!! 警告!! それ以上近づけば迎撃します!!』


 警備ロボットが警告をしてくるけど、奴はその前に熱線を放っていた。


 全然警告になってねぇぞ!!


「シールド!!」


 後ろに通すとテンダを危険に晒す可能性がある。俺は自分の前に障壁を張り、奴の熱線を上に弾いた。


 幸いコロニーの天井までは届かないようで、壁に穴が開くようなことはなさそうだ。


 俺は幾度となく襲い掛かってくる熱線を弾き飛ばし、警備ロボットに接近した。


「止まれぇえええ!!」


 射程距離まで近づいた俺は、警備ロボットにアッパーをぶち込む。ロボットは俺のスピードに追いつけず、直撃を受けて十メートルほど空へと打ちあがった。


『危険!! 危険!! 対象は危険度Sと認定されました。自爆します!!』


 余程効いたのか、ロボットは物騒なことをしゃべりだす。


 どの程度の威力があるか知らないけど、この辺りに被害を及ぼすのは間違いない。


「そんなことさせるかっての!!」


 俺は地面を蹴って飛び上がり、ロボットの背後に回った。


「せいやぁ!!」


 そして、思いきり下に向かって蹴り落とす。


 ――ドォオオオオオオオオンッ


 ロボットが地面に叩きつけられて、さっきの爆発に負けない轟音と突風が辺りに広がった。


『ピピーッ……ザザァアアアアッ……ガガガガッ……プツンッ』


 俺が着地すると同時に警備ロボットが沈黙。


「ふぅ……一丁上がり!!」


 額の汗を拭って一息つく。


「俺は夢でも見てんのか……」


 少し離れた場所からテンダの呆然とした声が聞こえた。


 俺みたいな成人もしていなさそうな人間がこんな人間離れしたことをすれば、テンダのような反応になるのは当然だと思う。


 俺も地球にいた頃にこんなことがあったら、同じような反応をしていたはず。


「おーい、お頭!! 警備ロボットを連れてきた……ぞ? いったいどうなってんだこりゃ……」


 遅れて戻って来た社員も、目の前の惨状を見て立ち尽くした。

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