5【ミキ視点】

「カップルになれたの!?良かったじゃない!」


帰って早速お母さんに結果を報告したらあからさまにびっくりされた。自分が婚活パーティーを薦めてきたくせにまさか娘が本当にカップルになって帰ってくるとは思ってなかったんだろう・・・。


「それで、どんな人なの?」


「どんなって・・・キラキラしてカッコイイ人だよ。私なんかにはもったいないくらい・・・。」


「なにそれ?まあ好みは人それぞれだからね、ミキがたまたまタイプだったんでしょ。その彼は何の仕事している人?」


「自分で会社やってるって・・・。」


「じゃあ社長さんなの!?ミキ、やったじゃない!玉の輿よ!絶対逃がさないようにしないと!」


「そう・・・だね・・・。」


サトルさんの話を聞いて興奮し始めたお母さんを置いてけぼりにして私は自分の部屋に戻った。


「よかったら今度うちに遊びにおいでよ!」


サトルさんがそう言ってくれた時、ドキッとしたし嬉しくもあった。でもここでホイホイついていく女ってどうなんだろうっていう考えが頭をよぎった。そんなつもりは無いんだろうけどなんだか試されている感覚に陥ったんだ。それに、恋愛するって物凄いエネルギーを使う。とんとん拍子に事が過ぎていって突然傷つくのが怖かったのもある。


「あっ、ごめんね、出会ったばっかりなのに自宅に誘うなんて流石に不謹慎だよね。ただ、ミキにボクの事もっとよく知って貰いたいなって思っただけなんだ。今のは忘れて!そうだな・・・今度映画でも観に行こうか?」


サトルさんと家族の話を少ししたんだ。ご両親が交通事故で亡くなって天涯孤独の身だから早く家族が欲しいなって思って今回パーティーに参加したらしい。自宅は自分一人が過ごすには広すぎて毎日寂しいって。私が母子家庭な事も話した。


「ミキのお母さんだもん、きっと優しい人なんだろうね!」


と言ってくれた。私を真っ直ぐ見つめるサトルさんの瞳は綺麗なガラス玉みたいだった。だけどその奥の方にはなんていうか寂しさや孤独みたいなものがいっぱいつまっている気がした。


みんなが憧れるようなこんな人にもきっと抱えてるものや悩みなんかがあるのかな・・・。


それを私はわかってあげられるだろうか?


受け入れてあげられるだろうか??


サトルさんと・・・家族に・・・???


飛躍しすぎてる自分の発想に恥ずかしさを感じつつも今日会ったばかりの彼の存在がどんどんどんどん大きくなっていくのを感じた。不安と期待が入り混じっている心境の中で私は次の一歩を踏み出した。


「あの・・・行きたいです。映画も・・・サトルさんの家も・・・。」


「そっか、よかった!じゃあまた来週末会えるかな?」


「・・・はい!」 


「楽しみだな!」


私が返事をするとサトルさんは屈託のない少年のような笑顔を見せた。


「じゃあ、また来週だね!」


サトルさんは家まで送ってくれると言ってくれたけど、お金持ちであろうサトルさんに庶民が住んでる何の変哲もないこのアパート近くまで送ってもらうのは気が引けてしまった。


また来週・・・か。サトルさんの言葉を思い出しふとクローゼットの方を見た。来週は何を着て行こうか?


久しくお出掛けするなんて事から遠ざかっていた私には今日来ていった小花柄のワンピースくらいしかデートに使える服が無い。来週末までには仕事終わりにでも可愛い服を買いに行かないとな。


布団の中、時間が経つのが楽しみなのはどれくらいぶりなのか考えた。子供の頃は些細な事でもワクワクして明日に希望が持てていたはずなのにな。


そして翌日からまるで世界が変わったかのように毎日仕事に勤しむ自分がいた。


やりがいなんて相変わらず無かったけどそれでもいいと思えた。もうすぐサトルさんと会える。そう思うだけで退屈で一辺倒なこの仕事にも希望が見出せたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る