カフェでアプリコットティーを飲みながら好きな食べ物やテレビ番組、身の上話などをして過ごした。まあ正直そんなの全然興味なんて無い訳だから本当は苦痛でしかないんだけどね。段階を踏むとかそういう人間のめんどくさいところには反吐が出る思いなんだけど、端折り過ぎは後々響いてくるからね。適度に相手の事を知って仲良くしておかないと。中身のまるでない会話を一通り終えた後、ボクはいよいよ切り出した。


「よかったら今度うちに遊びにおいでよ!」


すると彼女は一瞬戸惑った表情を見せた。あれ?ボクが考えてた表情とは違うな・・・もっと喜んで食い付いてくるかと思ったのに・・・ちょっと展開を急ぎすぎたのかな?いつもは一回街でデートを挟んでたんだけど従順そうなこの子ならボクの嫌いなまわりくどいパターンを通らなくていいかと思ったのに。


「あっ、ごめんね、出会ったばっかりなのに自宅に誘うなんて流石に不謹慎だよね。ただ、ミキにボクの事もっとよく知って貰いたいなって思っただけなんだ。今のは忘れて!そうだな・・・今度映画でも観に行こうか?」


あー・・・やばい、選択を間違えた事でこれは何回か段階を踏まないとダメなパターンになってしまったかもしれない。ボクの嫌いなものの一つは遠回りする事なのに。


カフェのテーブルの下、利き手ではない左手で見えないように自分の太ももに強く爪を立てた。きっとスラックスの下にはくっきりと自分が引っ掻いた跡が残っているだろう。不甲斐ない自分への罰。


「あの・・・行きたいです。映画も・・・サトルさんの家も・・・。」


すると照れてるのか思いつめているのかよくわからない顔でミキはそう言った。


「そっか、よかった!じゃあまた来週末会えるかな?」


「・・・はい!」 


映画鑑賞というくだらない工程が一つ増えてしまったけどとりあえずうちには来てくれそうだ。それがわかるとボクは気持ちをガラッと切り替え最高の笑顔を取り戻す。


「楽しみだな!」


それは偽りではなく、心から出た言葉だった。楽しみの意味は千差万別。ミキとは少し違った意味合いだったかもしれないけど正直に言ったんだから許して欲しい。アプリコットティーを飲み終わり、今日は解散する流れになった。


「じゃあ、また来週だね!」


ミキに車で家の近くまで送ろうと提案したがやんわり断られた。なんだろう・・・この子はちょいちょい想定外の態度をとってくるな・・・ま、でも、それはそれで面白いじゃないか!なんでも上手く行きすぎはつまらいしね!


もう夕方だ。綺麗な夕日が眩しくて車のサンバイザーで光を遮る。ドアミラーに映ったボクは少し悪魔に似た妖艶な笑顔を浮かべ帰路に着いた。


ああ、よかった。


ボクは常日頃いつ死んでもいいと思ってるけど、とりあえずこれでまた明日を生きる意味が見出せた。まだ、退屈なこの世界を生きていけそうだ。

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