後始末

「やり過ぎだ、少しは抑えろ阿呆が」

「………吊しますよ?」

「ご、ごめんなさい」


当初の予定よりも早い時間、太陽がまだ沈み切っていない時間だがレメを迎えに、というより折檻の意味を込めてレメの元へと飛んでいった。

飛んで行った先でレメは気色の悪い魔獣の様で魔獣ではない、どちらかというと俺と同じ様な感じがする変な生物を魔法の実験台にしていた。別にそれは問題無かったのだが、レメが加減を一切考えずに使ったためにこの街を中心にしたかなりの広範囲の空間が捻じ曲げられて壊れそうだったので、魔法とその制御に利用していた杖を踏み砕いた。俺に付き添って来たグレイスはレメの顔面を握りながら持ち上げている。


「取り敢えず、お前は死んでおけ」


レメへの折檻は最重要案件なので、この変な生物は消しとばしておく。死なずの呪いに似て非なる、というか劣化の劣化みたいな呪いが掛かっていたのでそれを解除しながら塵一つ残さずに消し飛ばす事にする。


『───!!』

「ではな」


もぞもぞと蠢きながら再生しながら此方を狙っていた生物に全ての自律的行動を封じる呪いをぶち撒けて、それから適当な魔法で消し飛ばす。グレイスとヴァイスの扱う治療と解呪を真似しただけの練習もしていない適当な魔法だが、龍にも王にも成れなかった劣等生物には充分だったようだで一瞬で消し飛ぶ。

まぁそもそも感情も知性も欠落させているから、放っておいても勝手に蘇生も出来なくなって死んでいっただろうがな。


「……う”え“!? もう終わったんですか!?」

「うん? あぁ、この程度ならば別に力を込める必要性もないしな。所詮一部の本能を残して、狂ったまま暴走を続けているだけの劣等だったしな」

「えーー、私全然殺し切れなかったんですけど..

というかSランクの冒険者さんが三人ほどやられたくらいには強かったんですけど...?」

「お前も実験台にしていただろう? つまりはそういう事だ。それにお前も殺し切れないが、殺される気は一切していなかっただろう?」

「いや、まぁ、そうですけど...」

「取り敢えず、持って帰りますね」

「おう、そうしてくれ。俺は後始末をしてから帰る」

「了解致しました」

「え“!? この状態で帰るんですか!?」

「怪我したら治してあげます、のでこのまま帰りましょうか。これも折檻の一つです」

「う”え“!?」


グレイスがレメの顔面を掴んで引き摺りながら帰っていくのを見送り、それからこの場の後始末を進める。

しなければならない、というかしておいた方がいい後始末は劣等が撒き散らした汚染の処理、レメの魔法による大気中の魔法の汚染の処理、あとはこの場の戦闘後の痕跡の処理だな。


「さてと、聞きたい事があるならば好きに聞いてくれて構わんぞ人間。片手間になるがな」

「………あぁ、幾つか聞いていいか?」

「いいぞ、聞くがいい。今の俺は、教え子が想定以上の成長を遂げていて気分がいいからな」

「では、聞かせてもらおう」


先日、グレイスとのデート中に立ち寄った冒険者ギルドで色々と話を聞かせてくれた男が、唖然とした表情で固まっていたので後始末をしながら話しかける。

話しかけてみれば即座に立ち直って、此方に質問をしてこようとするので、話を聞いてやることにする。


────────────────────────


「まず聞きたいんだが、あのモンスターについて何か知っているのか?」

「知らんがどういった経緯で生まれたのかは大体の察しが付いている」


最初の質問にそう返す。実力がどうとか、一体何をしたんだとかを聞いてくる物だと思っていたが、それ以上にあの劣等について気になるのか。

まぁ俺の考えで良いのならば話してやろう。続きを聞きたい様だしな。


「あの劣等はおそらくこの街に来るまでの街道で見つかる、腕やら脚やらが繋げられた魔獣とかいう生物を作り出した奴が作ったんだろうよ。ダンジョンの中にいるモンスター、その中でも上位個体や特殊個体を混ぜ合わせられて作られたんだろうよ」

「………そうか」

「混ぜる過程に呪い、俗に言う死なずの呪いを掛けながら混ぜ合わせられたからあれだけの再生能力を手に入れたんだろうよ。まぁダンジョン内で死に過ぎたのか、他の何かがあったかで狂ったんだろう。その結果あそこまで飢えて、暴れ回っていたんだろうよ」

「そうだったのか...その元凶は?」

「もう死んでるだろうよ、どんな理由にしてもな」


呪いの返還先が見つからないし確実だろうがな。

っと、ダンジョンと地上の境目が侵蝕されているな。放置していればこの街自体がダンジョンに変貌していたかもしれんな。んー、まぁこの街の地面を数年程度隔離していれば収まるだろう。


「では次なんだが...あの少女が使っていた魔法、特に一番最後に使った魔法に関して教えてもらっても良いか? あれを見てから寒気がしているんだが」

「? レメが使っていたのは指定した空間を自分の思い通りに捻じ曲げる魔法だな。あいつはあの手の魔法にかなり適していて、さらに物語や神話に出てくる極限環境を再現しているからこれだけの破壊力があると言う訳だ」

「………なるほど」

「それで最後の空間に関してだが、あれは秘匿にするべき魔法だし、使用を極力制限しなければならない類の物だからな。教えるのは勘弁してくれ」

「…………そうか」


そうだよ、あれは人間の生存領域で使っていい代物じゃない。もう吸収し終えているから影響がないが、あの空間の残滓を残していれば大気中の魔法を喰らい尽くして、レメの手から離れた状態で魔法が自律起動を始めて空間を支配していただろうな。……まだまだ弱いし粗が多い、それにレメ本人の実力がそこまで高くないから大きな問題にはならないだろうが、本人が実力を付けて魔法の精度を上げれば人間という種族の王にも成り得る魔法だ。

…………取り敢えず残滓は残っていないし、吸収した分はあまり宜しくはないが俺の溜め込んでいるリソースから補充しておく。


「それで最後の質問だが、お前さんたちは何者だ?」

「そうだな...お前たちの価値観、種族感で言うならば俺たちは竜人ではないし、劣化して力を失った竜という訳ではない。強いて言うならば龍だ」

「竜人でも竜でもないが竜? ……あぁ、いや、なるほどそう言うことか。物語の中だけの存在だと思っていたが、実在していたと言うことか...」

「物分かりがいいようで助かる。お前は優秀らしい」


実際は半呪半龍というこの世に俺とグレイスしかいない最も新しい種族なんだが、それを態々言ってやる理由もないので言うつもりもないがな。龍というのも真実だから別段間違っている訳ではないが。

…取り敢えず、粗方の後始末は終わったな。あとは地面を整えて、巻き込まれた建物の壁を直すだけだな。元の形を一切覚えていないから、場所の記憶に頼った逆行による修繕になるが。


「地面と壁の修繕はしておくが、あの瓦礫の山と壊された建物に関しては、お前らでなんとかしろよ」

「それだけやってくれれば充分だ、本当に助かったありがとう」

「良い物を見せてもらった礼に過ぎん...それではな、またいつか会う機会があればな」


修繕をさっさと済ませて、早々にこの場を飛び去っていくことにする。何か言っていたかもしれんが、興味もないので気にしない。

それよりかは、早々にこの街を出発したいな。なんとなくだが面倒くさい奴らに絡まれる様な気がして来たし、そもそも興味の対象はもういないからな。



────────────────────────



二章、終了!

終わり方はちょっと変な感じですけど、これで二章は終了です!! 後は番外編を二話挟んで、キャラ紹介を挟んで三章に入ります。

ではでは、作者でした。ありがとうございました。

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