遭遇

息を切らしながら一生懸命に走り続ける。

転んで擦りむいても、止まらずに走る。

助けを求めて、皆んなをあの人を助けて欲しくて。


助けてくれるなら悪魔でも化け物でも何でもいい。

私に出来る事なら何だってする。

だから、誰か、助けて...!!!



────────────────────────



「ふむ、意外としっかり整備されているな」

「そうですね、何も敷かれてはいませんけど石とかはこちらに退けられていますし、道自体もしっかりと固められて崩れない様にされていますね」

「それに道とそうじゃない場所をしっかりと区切ってあるぞ。少なくとも動物が移動するなら気付くくらいにはな」

「……あ、本当ですね。ちょっとだけですけど、境目に結界が作られてますね」


仮に此処を馬車が走るなら、馬はこの結界を超えて動かないだろうし、外側から小型の動物が侵入するのも多少は防げるだろう。風化しているから、作られて暫く経っていて整備もされていないんだろうが。

………それに、あの異形の獣共だと平気で超えて来るだろうから無駄な気もするが、気休めにはなるか。


「…それにしても、こいつらは一体なんなのだろうな? 普通と見るには異形が過ぎるし、かと言って異常生物かと言えばそうじゃなさそうだしな」

「分かりませんね、色々と混ざっている様で、生物としては単一の様ですし...若干の呪いを含んでいる様に感じますが、濁っている様な、薄いという様なそんな感じですね」

「多分原始的な物じゃないのだろう、龍峡の呪いや俺たちの呪いは原始的な物だしな。これは、おそらく雑に呪いを学んだ奴がやっているんだろうな、結合がかなり緩いから意識が半濁している」

「なるほど、という事はこの様なことをした存在がいるということですか?」

「もしくはアンデッドとか土地自体が呪われているかのどれかだろうな。まぁ土地は無いか、歩いていて呪いを感じなかったしな」

「ふむふむ...ところで何故先程から取り込まずに消し飛ばしているのですか?」

「うん? 生きているにしろ死んでいるにしろ、生命への冒涜を赦すつもりはないからな、仕掛けた奴に向けて呪いを叩き返してる」

「ほう、そうなんですね。では私は手を出さない方がいいですか?」

「どちらでもいいんだが...呪い返しの練習でもするか? 呪いを扱う時の練習になるしな」

「では次の時はやってみますね」


そんな感じで自然に誕生した訳じゃない、足が三本やら五本やらの鹿、熊の手足を生やした魚といった異形の生物を処理しながらそんな雑談をしていく。

ちなみに送り返している呪いは強化してから送り返している、具体的に言うと魂を蝕んで自分がやった行いを脳やら魂やらに再現させる呪いに強化してから送り返してる。生きてようが死んでようが関係無く蝕むからな、これで反省して自重するなら俺は関与しないけど、もっと被害を広げるなら魂をすり潰さないとな。

いやいっそ呪いでキメラを作って、それを突撃させてもいいかもしれんな? 自分自身の無力さを実感しながら消えてくれたら御の字だ。



………アッ‼︎


「聞こえたか?」

「子供の声ですね? 聞こえましたよ」

「流石に子供は見捨てられん、行くぞ」

「参りましょう」


処理が一通り終わったので再び歩き始めようと思った瞬間、子供の悲鳴の様な声が聞こえる。

これが大人ならば気にしなかったし進行方向なので普通に歩いて向かっていたが、子供ならば話は別だ。

自らの意思を持っていようとも戦う力がない、そんな未来への可能性は見捨てられないので飛び出す。

………これが龍の子供なら見捨てていたというか、龍の子供なら自分の力で何とかするだろうが、流石にこんなところに龍の子供なんていないだろうから急いで向かう事にする。声の聞こえた方向と位置からするに、一秒もかからずに辿り着けるだろう。


「…見つけたぞ、お前は治療を」

「了解です」


翼を広げて即座に移動して見つけたのは、地面に倒れている赤い首輪をつけた少女とその少女の前で涎を垂らしている狼頭の半魚人。

少女は転けたのか、襲われたのか傷だらけで痛々しいのでグレイスに治療をしておく様に伝えつつ、俺は狼頭を処理することにする。そう難しい事はしない、少女に血が飛ばない様にしながら狼頭を踏み潰して内包されている呪いを叩き返すだけだ。



「さ、大丈夫ですか?」

「...ほえ?」

「傷はどうですか? まだ痛みますか?」

「だ、大丈夫、です...?」

「そうですか、こちらは終わりました」

「こっちも終わったぞ。

さて少女よ、命を拾ったな。何があったか話してみるといい、力になってやる」

「…………??? 神様?」

「グレイス神様って呼ばれているぞ、返事をしてやるといい」

「私じゃないですよね? 目線的にドラコー様の方じゃないですか?」

「抱きしめていて、それだけ近くにいるんだからお前のことじゃないか? 少なくともこんな禍々しいのを神様呼びはしないだろう」

「禍々しさで言えば私もたいして変わりませんよ? こんあ変なのが神様な訳ないじゃないですか」

「灰色の神様!」

「ほれ見ろ」

「ぐぬぅ」

「黒色の神様!」

「ですって」

「何故だ?」

「お願いします!! 皆んなを助けて下さい!!」

「仕方ない、助けてやろう。なぁ神様?」

「えぇそうしましょうか。ねぇ神様?」

「!!!」

「では行くぞ、グレイス抱き上げておけ。少女よ道案内は任せる、助けて欲しい奴らの下へ案内してくれ」

「!! はい!!」


まぁ家族が襲われたとかそんな感じだろう。

死んでいないといいが、死んでいたらその時は少女の怒りを受け止めるくらいはやろうか。

………取り敢えず、急ぐか。



────────────────────────



多肢の獅子の異形が迫り、空中で止まる。それと同時に腕の中に積み上がっている結晶が風に吹かれた砂の様に消えていく。残り十三個、そう考えながら止まった異形を後ろから伸びた槍が刺し貫く。

死体となった異形、魔獣達が地面に転がるが、前に目を向ければ無数の魔獣がこちらを認識し、その眼光を向けて来ている。


私の人生は此処で終わるのだろう。

別段不思議な事じゃない、奴隷商をしていたのだから恨まれているだろうし相応の罰が下る。

私が無事だったのは奴隷との交流が深くて、安定した生活を提供出来ていて、国を超えて世界中が認可していてくれたからに過ぎない。

人を売っていた事に変わりはないのだから、私はいつこの命を奪われても不思議では無かった。


せめてもの後悔があるならば、この私の末路に奴隷の皆を巻き込んでしまう事だろうか。

一人しか逃してやれなかった、残された彼らは非常用に置いてあった武器を手に戦ってくれてはいるが、死ぬ事は明白だ。何せ敵の数は此方よりも遥かに多い。


「すまない、お前たち」

「気にしないで下さいオーナー!!

それにまだ死んだと決まった訳じゃあ無いです!!」

「そうですよオーナー!! 諦めるにはまだ早いです!!!」

「まだ誰も死んでませんよ!!」

「……そうか、ならば私がしっかりしないとな」

「「「オーナー!!!」」」

「では、行く...何だこれは?」


白い、光が降って来ている? これは魔力、いや魔法か。突然何故、空から降って来た?

誰も治療系の魔法を扱えないはず、それにこれだけの白さの魔法は聖女様でもない限り使えないはず。

………まさか、天からの示しなのか? 他人の命を売る事で生きてきた私は、まだ死んではいけないという事なのか? 足掻けというのか?


「ならば....!?!?」




「よう人間共、其処を動くなよ、死ぬぞ」


空から魔獣を踏み潰す様に姿を現したのは黒い翼に黒い尻尾、漆黒の双角が伸びた方であった。

神の使いではない、この肌を刺す鋭く熱い威光は、


「じゃあ疾く失せるがいい、異形共」


無数の魔獣を一瞬で消し飛ばすその圧倒的な姿は、



「おぉぉ、神よ...!!!」


崇め奉るべき本物の神だった

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