奴隷商サルバ・ロスプロブ

異形に襲われて立ち向かっていた人間を助けたら、その中で一番衣服が豪華な男が跪いて神と言って崇めてきた。………どうして?

流石に本物の神様を崇めてもらいたいな、俺には荷が重い。あと面倒くさい、崇められたら相応の態度を取らなきゃいけないじゃん。訂正するか。


「……俺は神ではないぞ?」

「いいえ、その隠しきれていない威光はまさしく我々を見守り続けている、驕り高ぶった凡不とは違う、本物の神です...!!」

「見守っていると言っているじゃないか、改めて言うぞ俺は神じゃない。ただ偶然にお前の知り合いを見つけて、それの頼みを受けたからお前たちを襲い掛かっていた奴らを殲滅しただけにすぎないんだ。分かるか」

「………では本当に神ではないの、ですか」

「あぁ、俺は神ではない。たまたまお前たちを助けた旅人だ」

「…………承りました、では恩人様。お名前を教えていただけますでしょうか?」

「その前に立て、服が土塗れで汚れているぞ」

「……失礼します」

「うむ、あぁここにも土がついているぞ。

それで俺の名前だったな、ドラコーだ。こんな化け物じみた見た目だが、ただ旅をしているだけの世間知らずだ」

「…なるほど、ドラコー様。改めまして私と、奴隷たちを救っていただき感謝いたします。貴方様がいなければこの場で命を落としていたことでしょう。

本当にありがとうございました、この矮小な身で出来る事ならば何でもします、どうぞご自由におっしゃってください。

申し遅れました、私の名はサルバ・ロスプロブと申します。サルバとお呼び下さい」

「あぁ、分かった。取り敢えず後ろに入る奴らと合流してから話を進めようか?」

「はい!!」


ふぅーーーーー、よし!!

神扱いは撤回させられたな、あとはあの少女から神様呼びを撤回させるだけだ。最悪リーズィを神様扱いにして崇めさせよう。龍王だし、俺より強いし崇め奉られるには丁度いいだろう。


「あ、終わりました?」

「終わったよ、そっちは?」

「怪我をしていた者は全員治療完了です、死者も病に感染している者もいませんでした」

「お疲れさん、だとよ聞いていたか?」

「……治療までしていただけたのですか...?」

「ついでだ、気にするな」


サルバを連れて離れたところにいたグレイスの元へと向かえば、グレイスは少女を抱き上げた状態で空中に浮遊して待っていた。

その少し離れた場所では少女以外の人間、首輪が付いているのから判断するにサルバの奴隷であろう人間達、が横倒しになった馬車から色々と運び出して地面の上に並べていっている。

パッと見たところ全員傷もないし、奴隷契約の印であろう物以外の外的干渉の痕跡も無いので、少女の救って欲しいという願いは完遂出来ているだろう。

……少女を含めた人間全員の眼差しが尊敬を超えて崇拝とか、信奉の眼差しをしているのは少しばかし思うところはある。というかマジで何故だ? こういう時って八つ当たりされたり化け物呼びされるのば普通じゃないのか? ミソッカス程度に残っている古い記憶の中ではそうなんだが。

…………よし、このまま街に行って其処での用事をさっさと済ませて去ろう。思いっきり離れて、何処か遠くへと向かえば追いかけてくる事はないだろう。そうすれば、いつか記憶が風化してこの崇拝だの信奉だのは薄れて消えていくだろう。


取り敢えずはグレイスにはそのまま少女の相手をしてもらって、俺はサルバからこれからどうするかを聞く事にしよう。場合によっては手を貸そう。


「それで、お前達はこれからどうするんだ?」

「はい!! これから荷物の確認をし、損傷が無事な物から軽微な物だけを集めてそれ以外は此処で焼き尽くし、それから残った物を持って街まで歩いて行きます!!!」

「……街というのは、黒い煙が立ち上っている場所か? あと声が大きい、音量を下げろ」

「し、失礼しました。黒い煙が上っている街はミゴンですね、あそこは最終目的地です。我々は一度この街道を進んで途中の分かれ道を曲がった先にある街、メドウで食料と馬車を手に入れて、それから少しばかしの休憩を取る予定です」

「なるほど」


……ミゴンだったか、その街まで連れて行くか。元々俺たちも其処を目指していたんだしな。

人数は、十三人か。だったら移動に使えそうな小さめの乗り物でも作って乗せるか。


命ヲ、物資ヲ運ベヨスヴァジルファリ、デュオ。

積荷ヲ背負ウハ籠カニストル・マグナム

「何をされているの、です、か...?」

「……このくらいでいいか? 分からんな、この手の物を作るのは初めてだしな。サルバどう思う?

………サルバ? どうした、そんな驚いて」


サクッと魔法で馬を二頭ほど作り出して、それからこの場にいる人間が荷物と一緒に乗っても安定するくらいの大きさを持つ籠を作り出す。

乗り心地を考えてクッションなどを設置しつつ、作り出した馬と籠を括り付ける。こちらに顔を擦り寄せてくる馬の頭を撫でながら、これでいいかサルバに確認を取ると、口を開けて愕然とした様子でこちらを眺めていた。

何をそんなに驚くことがある。たかだか魔法で馬と籠を作っただけに過ぎないだろうに、この程度龍峡の子供なら当たり前に出来るぞ。


「し、失礼しました。それは一体、何でしょうか?」

「馬と籠、荷物を乗せて人も乗せると良い。お前は籠の前のスペースに乗れ、道案内をお前に任せる」

「…乗せていただけるのですか?」

「お前らを乗せるために作った、さっさとミゴンとやらに向かった方がお前達も助かるだろう。

グレイス、其処の驚いている奴らに荷物を乗せさせろ。全ての荷物が乗せられるくらいのスペースは確保して作ってあるぞ」

「了解です、さぁ下りましょうか?」

「はーい!」

「そらサルバ驚いて、ないな。そんなに感極まっていないで指揮をしてやれ、お前があいつらの主だろう」

「は、はい!! お前たち、急ぎ乗せるぞ!!!」

「「「「はい!! オーナー!!!」」」」


指揮を取れって言ったんだが、何故サルバが一番荷物を運んでいるんだ? 要らない物や捨てる物を選別させるという目的だったんだが。

まぁ、邪魔するのもあれだし放っておくか。


────────────────────────


「終わりました、ドラコー様。全員無事に乗り終え、荷物も乗せ終わりました!」

「ん、随分と早かったな。それであそこに残っている残骸とその横にあるのが廃棄するやつだな?」

「はい、少々お待ち下さい、今から魔法を起動する準備をしますので。それが終われば出発しましょう」

「魔法はいい、お前は乗っていろ」


確認が取れたので魔法でサクッと消す。

また固まったサルバの首根っこを掴んで持ち上げて、御者台の上に座らせて、何も残っていないのを確認してから俺も御者台の上に座り、馬を出発させる。

スッと出発を始めて、ゆっくりと進んで行くのを確認出来たので、固まったままのサルバを起こす。


「おい、起きろ。出発したぞ」

「……はっ!! 失礼しました!」

「良い、気にするな。それでどう進めばいい?」

「はい! このまま街道を道なりに進み、途中で道が四つに分かれますので、その道を右に進んでいただければそこからは道なりです!!」

「…よし、分かった。お前たちも覚えておけよ」

『『ブフン!!』』

「良い返事だ」


これで進む道は大丈夫だし、ズレたり迷った時は街道を無視して直接進もう。

……到着までには少しばかし時間が掛かりそうだな。サルバにミゴンの街についてだとか、人間についてだとか、最近の大きな騒動だとか、サルバの仕事だとかについて聞くか。籠の中に乗っているグレイスも、推定奴隷たちと仲良く話しているようだしな。

まぁ気楽に行こう、アコニトから土産がてらに渡されたスウサウのジュースでも傾けながら。


「そら、長いこと座るんだから気楽にするといい」

「あ、ありがとうございます。これは?」

「……貰ったジュースだな。スウサウの実を搾って砂糖と水とを混ぜて作っているそうだ。美味いぞ」

「なるほど...いただきます」

「……どうだ?」

「……素晴らしいですね、スウサウというとただただ酸味がキツいというイメージが強いのですが、その酸味が甘さと混ざり合って程よいインパクトを与えてくれる。嗜好品として見るのなら、最上級です」


そうなのか? アコニトたちは頻繁に作っていたし、土産と言ってかなりの量を渡されたんだがな。

そんなに良い物だったのか、再会した時には改めて礼と何かしら返さないとな。あ、そうだ



「サルバ、お前の仕事はなんなんだ?」

「しがない奴隷商ですよ、ただ奴隷関係の事柄に関する権力全般を保有しているだけの奴隷商です。

たまたま機会があって、普通の商人もしていますが、基本的には人をお金で買ってそれを別の人のところに売りに行く仕事です。今回もその帰りですね」

「なるほどな」

「ミゴンの街に着いたら検問がありますので、着いた時に私が固まっていたり、意識を失っていれば叩き起こしてください。検問の対応をさせて頂きます」

「あぁ、分かった」

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