草原を抜けた先で

「……ようやく抜けたな」

「……そうですね、もう草原は暫くいいです」

「……俺もそう思う」


あれから七日、道中で見つけた穴に飛び込んだり、階段を下りたりしたのも原因かもしれないが、ようやく草原を抜けて草以外が生えている場所に出れた。

チラッと鳥が止まっているのも見えたし、馬が牛と並走しているのも確認出来た。

………当分草原はいいな、思った以上に何も無さすぎる。穴から出て進路を確認しても、直進出来てるのか分からんから立ち止まっては上に行って確認してを繰り返し続けたしな。せめて変化が欲しいのに、本っ当に変化がない。ずっと変わらない若緑の大草原よ。

………次に草原に立ち入ったら空を飛んで逃げよう。


「よし、あの苦しみは忘れよう」

「そうしましょう………どちらに向かえばいいんでしたっけ? ちょっと方向感覚が...」

「確か...あっちだ、あの黒い煙が上っている方だったはず」

「黒い煙? ………あぁ、あれですね。

では早速行きましょうか、一秒でも早く此処を去りたいです」

「あぁ、そうしよう」


そんなこんなで草原から足を踏み出す。足元には決して目を向けず、周囲に生えている木々や岩、あとは動き回っている動物たちに目を向ける。

角とかは生えたままだが、魔法を纏うことも垂れ流すこともしていないのでこちらに気づいた動物が勝手に逃げる事もないので、万が一近づいて襲い掛かられない様に気を付けつつ足を進める。


「わぁ、あんなに足が少ない馬は初めて見ました」

「うん? あぁ、そうだな。龍峡の馬は八本だったか十本だったかで、やたらと多いんだったな」

「そうですそうです、図体が大きくて矢鱈と暴れ回ってる害獣ですね。肉も美味しくないので、尻尾の毛をちょっとした装飾に使うくらいしか利用価値が無い、それなのに割と頻繁に見つかるし襲いかかって来るんですよ。私のママンがキレて根絶しようとしたくらいには嫌われてますよ」

「………キレたのか、あのヴァイスが」

「キレましたよ、正直に言いますと滅茶苦茶怖かったです。巻き込まれて殺される気がするくらいには怖かったので、パパンを盾に私は逃げました」

「それは、同情するな」

「ですね、私も翌日ズタボロになったパパンには同情しました」


……だろうな、基本的に温厚だけどキレた時は酒カス老龍十数匹を単騎で捩じ伏せてたしな。若い時代でさえそれなのに、それがそこから更に強くなってるんだから、旦那もズタボロにもなるわな。

………そこに楽しみを見出してそうな気がして、すこしばかし怖いんだが。


「ほへー、あ! 牛ですよ! しばき倒して来ていいですか! 行って来ます!!」

「いいぞ…………ん? いや、ちょっと待て!! あーーー、もう死んでら」

「はむはむ、いい固さです。それにこの独特な素朴感は私結構好きですね」

「もう食ってる、あまり殺し過ぎるなよ?

やり過ぎると此処から牛が消えかねない」

「んく...分かりました! 暫くはこれで我慢しておきます! 乾燥ドライ

「ジャーキーにしたのか」

「はい! 一欠片いりますか?」

「貰おう」


ん、確かにこの素朴な感じはいいな。味が良い食べ物からでは摂取出来ない栄養を感じて、悪くない。

目的地の街に立ち入れたらそこで食材を手に入れるのも悪くないかもしれないな。ついでに適当店を探してそこで食べてみるのも悪くないかもしれん。

…………そういえば金が無いな、まぁ宝石を売れば金は手に入るだろう。

さてと、今は取り敢えずゆっくりと足を進めよう。



「ほう、これは楼閣か?」

「その様ですね...結界が貼られている様です。

これは、おそらく鍵が外にあるタイプの結界です」

「ほう、という事はどこかで此処の鍵が見つかるかもしれんのか」

「そうみたいです。ちなみにこのくらいの結界なら簡単に壊せますけどどうします?」

「俺も出来るがやめておこう。そういうの探すのも旅だし、先を越されてしまうのも旅だ」

「そうですか? では壊すのは止めておきましょう」

「あぁ、ついでに言うと、おそらくこいつは地下がメインだぞ」

「え? あ、本当ですね地下に空洞、というより迷宮ですね。迷宮が広がってます」

「性根が腐ってる奴が上のダミーを登っているのを見て嘲笑いたいのか、本質を見抜けるかどうかの試練としての構造かのどちらかだろうな」

「なるほど、では今は放置するという事で」


一定の距離まで近づいたら見える様になった雲を突き抜ける高さをしている煉瓦製の楼閣に触りながらそう話した。複雑な結界に地下に広がる迷宮、明らかに試練の様に見えるが、もしかしたら此処にあるのは全部ダミーだったりしてな。

そこら辺に生えている木の根元か岩の中にこの試練の報酬が入っているかも...流石にそれは無いか。



「ありゃ、ウサギが寄って来ましたね」

キューキュー

「寄って来るどころか飛び掛かってきたぞ。歯を立てる訳でもなく、必死になって腕に引っ付いているが」

「可愛らしい、抱き上げてみては?」

「抱き上げてみるかぁ」

キュキュ、キューー!!

「喜んで、いる、のか? すまないウサギの言葉はさっぱりなんだ」

キュ!?

「驚いてますね、という事はこちらの言葉は分かっているんですかね?」

「かもしれんな。近くに同族がいない様だし、着いて来るか?」

キュ、キュ、キューー

「どういう、事だ?」

「歩き回っているだけだから、その内仲間と合流するとかですかね?」

「首を縦に振っているな、という事は正解か」

「みたいですね、ではお別れですかね?」

「まぁそうなるな、よっと。じゃあ、気を付けてな」

キュキュ、キューキュー


道中で何故か戯れついてきたウサギの相手をしながら歩いて、そのまま途中で別れていく。旅の仲間になるなら良さげだったが、家族がいるならば無理に連れて行けないな。

だが、存外可愛らしかったな。というか割と見た目も何もかも並の生物とは違うのに、あのウサギは何故戯れついてきた?



まぁそんなこんなで興味のあるものを見つけては近寄り、定期的にウサギやリスに体を這い上がられたり、豚や鹿を見つけてそれを狩ってはジャーキーにしたりと自由に進んでいく。

ついでに途中で見つけた頭が複数の牛や二本足で歩き回る亀、空を飛び回る真っ黒な蛸といった奇妙にも程がある生物を消し飛ばしながら。


────────────────────────


「うん? これは街道、か?」

「整備は拙いですけどされてますし、此処に何かが通った跡があるので多分街道ですよ」

「そうか....うむ、悩みどころだな」

「何をです?」

「このまま街道に沿って此方へ歩くか、それとも彼方へ歩くか、街道を無視して直進を続けるかだな」

「ふむ、それは確かに悩みどころですね。

んーーーー、こっちに行ってみませんか?」

「うん? じゃあそうするか」

「ですです、面白そうな事に出会える気がします」


という事で進路変更、黒い煙の街からそっち方面に伸びているとはいえ少し進路が逸れている街道に沿って歩く事に。とはいえおそらく通っているのは馬車だろうから、街道の上ではなく横を歩いて轢かれない様にして歩いていく。

それにしても、面白そうな事、か...

だったら多分本当に面白そうな事に出会えるんだろうな、龍の予感は実質的な未来予知みたいなものだし。

戦闘か、新生物か、それとも別の何かか。

まぁ何にしろ楽しみな事には変わらない、ゆっくりと歩いていこうじゃないか。


「さてと、それじゃあ行くか」

「行きましょうか」

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