鍛錬verドラコー

アコニトに霊石を貰ってから二日後。

疲労による鍛錬休みと農園の収穫と鳥の群生を発見した事による大規模狩猟で二日ほど鍛錬が無かった。

まぁかなりの大人数でそこそこの位置にいる鳥を狩りに行ったので、実質的には鍛錬としての側面も合った気もするので問題ないとは思う。


それは置いておいて


同じ様に修練場に向かい、同じ様にゴブリンたちの鍛錬を見学し、ゴブリンたちの前に立っている。

ゴブリンたちの鍛錬自体は前回より練度が上がっている感じは無かったが、元々感じ取れていた強くなる事への意欲がさらに高まっている様に思った。

それから、この追加鍛錬への興味とでもいうべき物をひしひしと感じる。

……面白いので、前回より厳しめにやるとしようか。


「さてと、今日は俺が主導する。

とは言ってもだ、この人数を同時に指導するって言うのは大変だ。ということでだ」


指で軽く音を鳴らして、集めていた石ころを修練場に散りばめる。マーキングはしてあるので修練場の外に飛んでいっても即時に回収できるし、鍛錬終わりには全部一掃出来るように細工してあるので問題はない。

それから翼と尻尾を生やしておく。


「実戦訓練としようじゃないか。

大体十から二十ほどの組になって隅に固まってくれ。

それから一組ずつ俺と戦おうじゃないか。

とは言ってもだ、俺とお前たちでは力の差があるし、そもそもこれは鍛錬であって戦闘ではない。

と言う訳で...よし、こうして全員にマーカーを付ける。武器を当てたり自分以外によって触られると砕けるから、砕けたら脱落だ。

俺は腕と足と首にこれを付けるから、お前たちは連携を活かし、手に持った武器を活かし、全てを活かして俺のマーカーを狙え。五つ全て砕けたらそうだな、その組全員に俺が専用の武器を用意してやろう」


指を鳴らして事前に用意しておいた魔法を起動する。

俺には四肢と首に円状の輪っか、ゴブリンたちには胸元に菱形の塊を取り付ける。取り付けたのは密着している相手以外に触れられると砕けるように開発したマーカータイプの魔法だ。

片っ端から気絶させていっても良かったんだが、負けた後の振り返りがすぐ出来ないのは問題があると思い開発して、それから今日の鍛錬中にマーキングしておいた。

全力でやれば1秒かからずにこの修練場内にいるゴブリン全員のマーカーを砕けるが、流石にそれでは鍛錬にならないので軽く手を抜く。まぁ五つ全部どころか一つも砕かせるつもりも無いが。

……最初の数分は攻撃せずにいよう。それから順番に使える物を増やしていこう。


「準備出来たようだな? じゃあまずはその端に固まっている組からやろうか。

他の者は端に組ごとで寄っておけ、全滅したらすぐに交代させるからな」



────────────────────────



最初の組は槍が六人、斧が五人、槌が三人の十四人。

武器を持ち、転がっている石を退けているあたり利用する気は無いのだろう。もしくは、利用手段が分かっていないか。


「さぁ、来るがいい」


声を掛けてやれば槍持ちが三人同時に飛び込んでくる。その後ろで槌持ちと斧持ちが横に広がって、残った三人の槍持ちが構えた状態で待っている。

足音的に斧持ちが囲い込み、槌持ちがその後ろから強襲、さらにその後で待っている槍持ちが突撃と言った作戦か。まぁ、乗ってやろうか。


飛び込んで来た三人の槍にそっと手を添えて横に逸らす。槍持ちが俺の数歩後ろに行った時点で周りを走っていた斧持ちが斧を掲げて走って来る。

五方向、咄嗟に逃げるなら下か上のどちらかでありそれを想定しているんだろうが、まぁそこまでは乗らなくていいだろう。

振り返って後ろから走って来ていた二人の斧を軽く叩いて下に落とす。次に方向を此方に変えていた二人を通り過ぎて直進を続けていた一人に近づいて足を掛ける。二度目の方向転換で足が回り切らずに地面の石に躓いて転んでいる二人を放置して、足下の石を拾い上げて戸惑って立っている槌持ちの槌に向けて石を投げて手から下へと落とす。

そのまま走って来る音が聞こえたので後ろに目を向ければ走り込んでくる三人が見えたので、飛んで走っている後ろに降りる。最初に捌いた三人が立ち上がって突っ込んで来ているので、軽く捌きながら口を開く。


「動きは悪く無い、咄嗟に動きや想定外の動きに対しても即座に対応しようとする柔軟さ、倒している隙を狙っての飛び込み、一度流されても次の一手を諦めずに立ち上がって次の動きに出るのは良い。

出来る事ならば一つの作戦では無く、作戦のそれぞれの動きで完璧に対応された時はどうするか、想定とは違う動きをされたらどうするか、どのタイミングで立て直すか、そう言った点に思考を巡らせるとさらに良くなるだろう。では、どうすればより良い動きになれたか考えておくように」


遠くから投げられた斧を受け止めて床にそっと置きながら走り始める。

まずは石を拾っている斧を投げて来たゴブリンの腕を掴み地面に倒しながら胸元のマーカーを砕く。次に俺がいた場所に向けて走っていた斧持ち二人の後ろ首を掴んで地面にそっと置きながらマーカーを砕く。

それから固まっている走り出そうとしていた姿勢で固まっている槌持ち三人を地面に転ばせてマーカーを砕く。追い込まれ始めている事に気付いた槍持ち四人が胸元のマーカーを庇う様に槍を抱えたので、スッと近づいて抱えた槍を取り上げながら地面に転がしつつマーカーを砕く。


残り四人


槍持ちの二人は分かれながら突撃、斧持ちの二人はジリジリと此方に近付いて来ている。

タンタンタンとリズム取り、槍持ちの二人が飛び込み斧持ちの二人が走り出したタイミングで斧持ちの元へと飛び込み、掴み地面に倒してマーカーを砕く。そのまま飛び込み続けている槍持ちを一人ずつ抱えて地面に倒しながらマーカーを砕いていく。


「終了だ。次の組を見ながら振り返るといい。

次の組はグレイスの隣だな。その組が入れ。

そこから順番に入って来い、終わった組は反対側で固まっているように」


手を叩きながらそう言って、最初に立っていた場所へと移動する。俺のマーカーは無傷だ。



────────────────────────


「二十人という大人数を活かして足並みを揃えた状態で包囲戦を仕掛けるという考えは良い。

攻撃のタイミングをズラして捌きにくくしつつ、全てを対応された時のことを考えて後方から追撃をすると言う考えも悪くない。

だが、その作戦を実行する為に機動力と自分達が動ける空間を減らしてしまったところは反省点だな。

それから敵が自分たちの頭上を飛び越えて離れた位置へと移動されるという可能性を考慮出来ていないところも反省点だな。

持っている物を可能な限り活かせるように振り返っておくといい。では、終了だ」



「良いぞ、機動力を最大限に活かして常に動き続けるのも、足下を削って動きに制限を掛けるのも、態と動ける瞬間を作り出して隙にするのも良い考えだ。

だが、決定力に欠けているな。作り出した隙を突けずに体勢を立て直す時間になってしまっている。

それでは悪戯に体力を消費しているだけだ、一撃を叩き込めると確信出来たタイミングで叩き込め。

命の奪い合いでは無いが、戦いだぞ? 攻撃をしなければ勝利には繋げられない。

そこをしっかりと振り返っておくといい。終了だ」



「悪くない、持ち合わせた物の活かし方も作り出した隙を打つ動きも悪くはない。

だが、中途半端だな。前回の鍛錬を思い出せ。全身全霊の一撃を叩き込め。己が出来る全力で動き、その余力を活かして全力を一撃に込めろ。

あぁだが、砕かれてもそこで終わらずに一撃を振り絞るのはとても良い。脱落だとは言ったが、それで終わりだとは言っていないからな。その隙を突いたのはとても良い。

全力を出す事に躊躇いを無くせ、常にこれで終わらせるという気概を持って動くといい。

では振り返っておくように、終了だ」



「見事だ、ようやく俺のマーカーを一つ砕いたな。

攻撃を叩き込み続け、それの対応をしている隙に遠くからの投石でマーカーを砕く、素晴らしい動きだ。

だが、そこで満足していてはダメだ。

一つを砕いた時点で満足して動きが緩み、自由に動ける瞬間を作ってしまっている。俺のマーカーは五つあるんだぞ? 一つで満足していてはダメだな。

なんなら俺がマーカーを砕かれた瞬間の硬直時間を利用して残りのマーカーを狙わないとな。

それでも良かったぞ、十分合格点を上げられるな。

さぁ何が良かったのか、何がダメだったのかを振り返っておくように。終了だ」



「うーむ、焦り過ぎだな。

個々が突出し過ぎて奇跡的に噛み合った瞬間はあれどもズレたり互いに邪魔し合ったりしているな。それにお互いの攻撃がぶつかり合って、自分たちでマーカーを砕いてしまっているな。

冷静に、集団であるという利点を活かして互いに連携を重ねないとな。その上で個々の突出している能力を活かせていた場合、おそらく俺のマーカーを三つまで砕けていただろうな。

だが個人技の一点だけでいうならば長けていたぞ。それ故に互いに潰し合う形になったのは惜しい。

さぁよく反省し、どうするべきだったかを振り返っておくように。終了だ」



「うむ、素晴らしい。流石はアコニトを筆頭とした熟練の戦士たちだと言えるな。

機動力の活かし方、一撃を叩き込む瞬間、意図的に攻めを緩めるタイミング、相手の油断を誘う動き、一撃を叩き込みそこからさらに二撃目三撃目を連携して繋げる動き、さらには素早く攻め立てながら空間を空けてそこに投石を捩じ込む技術。そのどれをとっても素晴らしい、そうとしか言えない動きだった。

だからこそ一瞬の慢心が惜しかったな。

三つ目を砕いた瞬間の慢心、それだけで戦いに慣れた相手の場合、今回のように一気に逆転されてしまう。

それから主導していたアコニトを落とされた時に連携を崩してしまったのも惜しいな。誰が落とされたとしても、即座にその空白を埋めることが出来るように立て直せるようになっておくべきだったな。終わりだ」


────────────────────────



ふぅ、流石に少し疲れたな。

だがまぁ、中々良かったんじゃないか? 考えながら動き続けるということを知り、利用出来る物を全て利用するという気概を持てるようになっただろうし。

これをどれだけ覚えていられて、今後活かしていけるのかはこいつら次第で俺の管轄外だしな。


「さぁ俺の鍛錬は終了だ、疲れただろうしじっくり体を休めておけよ。俺は先に戻っておく」


散らばった石を全て回収して、そう声を掛けてから修練場の外に足を運ぶ。移動し始めた時点でグレイスは即座に俺の後方へと移動して同じ速度で歩きだす。

ゴブリンたちは修練場に残って振り返っている奴もいれば武器を持ち上げて打ち合いを始めた奴もいる。

ある意味でドラゴン以上に強さに貪欲だなこいつら。


………さて、目を逸らすのは止めるか。

ヒシヒシと飢えた獣の様な、抑えようとして抑えきれていない欲求に対応する事にしよう。



「グレイス、お前も戦いたかったか?」

「……分かりますか?」

「抑え切れていないぞ」

「これは、失礼しました...確かに戦いたいですけど、多分この集落どころかこの森全域に被害を出してしまいそうなので、我慢しようと思っていたのですが。抑え切れていませんでしたか」

「まぁ仕方あるまい。一応被害を出さない程度に戦えるが、それでは満足出来んだろ?」

「……はい」

「多分俺も満足出来ないだろうから、もう少し待て。

先日アコニトに聞いたがこの森を抜けた先にかなり広い草原があるらしい。そこならば特に被害を出さずに戦えるだろうから、全力でやろうか」

「!! よろしいのですか?」

「妻の欲求を蔑ろにする様な男になる気はないからな。無理して抑える必要は無いぞ、頼みや願いがあればすぐに言うといい」

「はい!」

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