殺戮者トロル、戦士ゴブリン
『それでは、この森の人型種について話していきましょうか』
この内容次第で、俺たちの滞在期間延長が左右されるな。俺にとっては俺以外の初めての天然の人型種。
俺たちの興味を刺激してくれる様な奴だろうか?
『この森にはゴブリンとトロルの2種類の人型種が生息しておりますね。ゴブリンは固まって集落を形成し、トロルは気の向くままに放浪しておりますが』
「? トロルは集団で行動しないのか?」
『あまりしませんね、発情期でも無い限り』
「発情期?」
「トロルって人型の獣なんです?」
『否定は、出来ませんね。彼らは本能の赴くままに生きておりますし、痛みにもかなり鈍いですし。
………会話してるところも見た事が無い気がします』
それはもはやただの獣じゃ無いか?
なんなら狼とかの方がまだ意思疎通をしていないか?
………これはちょっと面白そうだな、理性とかを植え付けてみれば変な行動するかな?
『続きましてゴブリンですね。
彼らの習性、その最大の特徴は戦士である事です』
「戦士?」
『はい。彼らは武器を手に持ち、あらゆる手段を使って勝利を掴み取ろうとする戦士であり、戦士としての戦いで死んでいく事を至高としています。
なお戦えない者を戦線に立たす事などはせず、同族の戦えないメスや子供は全力で守ろうとしますし、敵対している種族であっても戦えないのならば手を差し伸べて治療するくらいの慈悲深さはあります』
「ほーう、それは凄いな」
『はい、おそらくこの森で最も未来のある種族だと思っています。ですので、最近その個体数が減少傾向にあるのは非常の悲しい事です』
「ん? 何が原因だ?
そんな性質をしているなら、そう容易く数を減少させる事はない気がするんだが」
『トロルです』
「うん?」
『トロルがゴブリンを餌と判断する様になり、ゴブリンたちは襲われ続けているのです。
戦士ではあるのですが、それほど強いわけでも無い彼らは残酷な事ですがただトロルによって殺されるだけなのです』
「……そうか」
「……ふーん」
それは、残念だな。
───────────────────────
精霊の泉に到着し武器の作成と諸々の加工、それから色々と話を聞いてから数日が経過。
ゴブリンの事は憐れには思うが、特段救いを求めて来られている訳でもないので干渉はしていない。
それに、命のあり方はそういう物だ。それに干渉し過ぎるのは、あまりよろしく無い。
仮に干渉するとするのならば、
死んでいるのと変わらない状態でも生にしがみ付き、その状態で救いを求めて来たら
助けてやらん事はないな。
「さてと、忘れ物は無いな?」
「はい、武器は持ちましたし、毒団子は全部回収しました。木の実もそれぞれ一定数確保しました」
「良し、俺の方も忘れ物は、無いな。
それではなフロイリヒ、世話になった」
「お邪魔しました」
『いえ、こちらこそ楽しい時間でした』
忘れ物が無いかを確認しながら、フロイリヒに別れの挨拶を伝えていく。
この泉に滞在しつつ、適度に周りを見て歩いたが一度もゴブリンやトロルに出会う事も無かったので、想定していた通りにこの森を脱出する事にした。
グレイスが毒草の加工手段を知りたがったので実践を交えながら教えたり、寝る場所を提供してくれたお礼代わりにフロイリヒへ翡翠を使った弓を渡したり、迷い込んで来たリスに拾った木の実を渡して解放してやったりなどをしていたが、そろそろ違う景色が見たくなったので出発する。
グレイスが気になっている様だったので、ゴブリンは探したんだが、見つからなかったな。
『次は何処に行かれるのですか?』
「さぁな、何処に何があるのかを全く知らない状態で始めた旅だ。気の向くままに、適当に進むさ」
『なるほど...ではお節介かもしれませんが、この森の近くに洞窟があるのです。そこにも精霊がおりますので、気が向かれましたら訪れてみて下さい』
「おう、頭の片隅にでも置いておこう」
『ありがとうございます』
フロイリヒに背を向けて、泉を出発する。
一歩森の中に入れば結界に包まれるので踏み砕きつつ、グレイスを隣に歩かせつつ森と森の暗闇に飲み込まれて泉が見えなくなるくらいまで足を進める。
「あの精霊は嫌いか、グレイス」
「はい、少し気に入りませんでしたね」
「まぁな、偽る事も謀略も遊び以外ではしないお前たちにとっては、あの性格は気に入らんか」
「……分かっていたのですか?」
「うん? お前があの精霊を嫌っている事か? それともあの精霊が何かしらを隠している事か?
まぁ何にしろ、俺はあの精霊の性格だのは一切信用していないぞ? 情報は一部を隠しながら真実を話している様だったしな」
「そうでしたか………私は従者に向きませんかね?」
「嫌悪感は隠さないとな、だがまぁ別にいいんじゃないか? 従者としてどうあるべきかという事を何も知らないのだしな、俺もお前も。
じっくりと考えればいいし、従者が面倒になったのならば俺の妻として旅に同伴すればいいさ」
「……はい!」
「元気になったな、それじゃあ先を急ぐか」
「そうしましょう」
若干落ち込み気味だったグレイスを立ち直らせて、本格的に移動を再開する。
目標は今日中にこの森を出発する事だが......無理そうだな。
「……血の匂いに、初めて出会う気配だな」
「……サイズ的にゴブリンでしょうか?」
「行くぞ」
「はい」
森を抜けよと思い少し進んだ瞬間、鼻を突き刺す独特な血のにおい。
それからそのにおいの方を這いつくばる、消えかけの気配たち。
……おそらくはゴブリンたちだろう、狩られた後の。
「ほーう、随分と残虐だなぁ」
「………狩りでは、無い雰囲気ですね。ここまでバラバラにする事も、死体を残す理由も無いですし」
「悪戯に殺したか、オスに興味がないある種の美食主義か。どっちにしろ、気分の良い物では無いな」
「そうですね、これは流石に」
気配を辿って向かえば、そこは凄惨な風景だった。
緑色の160程度の人型の死体の群れ。四肢が強引に引き千切られた死体、下半身を踏み潰されたまま失血死したであろう死体、大した鋭さも無い木の棒で無理矢理突き刺したのが分かる積み上げられた死体、踏み潰し踏み躙られた肉の残骸。
どの死体も地面を握り締め、歯を噛み締め、武器を手放していないのを見るに抗ったのだろう事が分かる。
下手人はそんな物を意に介していなかった様だが。
「少し離れろグレイス、このままでは流石に憐れだ」
手を振って呪いの波を再現する。
周りの草木を多少巻き込むが、気にせずに死体を全て飲み込み消してやる。
ほんの数秒で消え失せ、何も無い空間が出来上がる。
何か残っていないか辺りを見渡せば、何かが這いつくばった状態で群生した草木を掻き分けながら進んで行った血の滲んだ痕跡が見つかった。
「行くぞ」
返事を待たずに、進んだ跡を追いかける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます