精霊との語らい

『さて、何からお話ししましょうか?』

「そうだな」


正直言ってしまえば聞きたい事は山程あるが、全部聞きたい訳では無いのだよな。ある程度は知らない状態でいたい、その方が楽しいしな。

うーむ、取り敢えずフロイリヒについてとこの森についてだけでいいか。それ以外は、別にいいや。


「それじゃあ、まずお前の役目を教えてくれ」

『私の役目ですね? 私の役目は此処にいつか訪れる英雄としての格を持った人間に、泉の中心地に置いてある霊石を託す事です。それまではこの泉を守りながら森を管理し続けるだけですね』

「人間だけか?」

『はい、人間だけですね。最も勇気があり、優しさがあり、自分の意思を持つ。それでいて時には冷酷になれて、敵を討つ事を躊躇わず、死を背負う事が出来る英雄としての格を持った人間だけです』

「なるほどなぁ、中々いないだろうそんな人間」

『えぇ、いませんね。

でも中々此処での生活も悪くはありませんよ? 此処の水を飲む為に多くの動物が訪れますし、人間でなくとも此処に挑む英雄には何度か出会いましたし』

「ほー、それは中々悪くなさそうだな」

『えぇ、そうですね。退屈ではありませんよ』


俺はごめんだが、まぁ価値観が違うから否定はせん。

それよりも、人間であることに随分と拘っているようだな。生憎俺はもう人間じゃ無いし、そもそも英雄じゃないから格は無いが、妙だな?

どう考えても強い武器を託すのならば、比較的に特化した物が無い人間より、何かしらが特化している亜人に託すべきだと思うんだがな。

……まぁ俺の知らん、神の思惑があるんだろう。


「なるほどなぁ...そういえばお前はどの神の端末なんだ? 答えられなければ別にいいが」

『私のですか? 私は繁栄の神の端末ですね。

この地がこれほどまでの深い木々に覆われているのは繁栄の力が浸透しているからですね』

「ほー、通りでしっかりと成長している訳だ。

となると、お前が管理している霊石はその繁栄の力とやらが宿っているんだな?」

『その通りですね、そう簡単に広める訳にもいかない力が宿っています。

ですので託す事が出来る英雄を待つのです』

「封印では無く正しく力を扱う事を願ってか」

『はい』


なるほどねぇ、それはそれは随分と気長な物だな。

……繁栄の神とやらがこの泉にその霊石を用意した本質はおそらく人間という種族を存続させる為。何らかの外的要因によって追い込まれた人間がその外的要因を排除して、その後この繁栄の力が宿った霊石を手に入れて減らされた人間を増やす。

人間ならば急速に増えたとして、最大でも生きるならば百五十年、亜人とのハーフでも五千年。その程度ならば大量に増えても大した影響にならないから、この泉の霊石は人間だけなのだろうな。

そりゃそうだ、詳しい内容なんて知らんがエルフは数万年は軽く生き続けるし、ドワーフだって平和であるのならば数万年を生きる。そんな種族たちに繁栄の力を与えてしまえば、人間という種族は劣等種に成り下がり、表舞台から消えてしまう。

それは神的には受け入れ難いのだろう。

………意外と神様も世界に干渉しているんだな。

旅の中で精霊がいそうな場所があれば訪ねてみるのも悪くは無いな、こんな話が聞けるのならば。


『このくらいでしょうか?』

「いや、お前さんがこの泉周りにしている結界の様な物について教えてくれ。正直そこが一番気になる」


そこまで強い干渉でも無かったから気にせずに踏み砕いたんだが、魔法で作った感じでは無い結界だったから是非とも聴いておきたかった。

原理さえ分かれば、先の狼の様に謝って殺してしまう事も無くなるだろうしな。


『あれですか? あれは私の本体である神が仕掛けた試練ですね。踏み込めば道を失い、どちらの方向を向いて進んでいるのか分からなくなる。その状態で道を見つけ出し、自分の足で進めるか否かで挑戦者を篩に掛けます。なので申し訳ないのですが、どの様な原理で作られているかは私も分かりません』

「そうか、それならまぁ仕方ないな」


やはり神か、そういった特殊な技術に関しては直接神に問いかけるしか無いのか?

どうすれば問い掛けられる? ………悩んでいても仕方ないな、頭の片隅にでも置いておこう。



『これで私に関する質問は以上でしょうか?』

「ん? あぁ、お前に関する質問はこんなもんだ」

『そうですか、では他に聞きたい事があるのですね』

「あぁ、この森について教えてくれ」

『この森についてですか? それは一体どういう事が知りたいのでしょうか?

この森がどうやって作られた経緯でしょうか? それともこの森が世界でどの辺りに位置しているのかでしょうか? 或いはこの森に生きる種についてでしょうか? 分かる事であるならば、何を聞いていただいても構いませんよ』

「あー、ちょっと待ってくれ」

『承りました』


情報が、情報が多い...!!!

一気に畳み掛けられると分からんのだ、頭を回している最中にだが。

何を聞く? 森の成り立ち? 一番どうでもいいな。

世界での位置関係も気になるのは気になるが、次の旅の行き先にノイズが掛かる。

そうなってくるとこの森に生きる種族くらいか? まだ見てないのもいるかもしれんし、聞くか。

……グレイスもようやく満足いく出来上がりになったようだしな。


「何の話をしてるんですか?」

「さっきまではフロイリヒの此処での役目を聞いていた。今からこの森に生きる種族について教えてもらおうと思ってな。お前も聞くだろう」

「はい!」

『この森に生きる種についてですね? 承りました』



───────────────────────



『植物は概ね分かっていますよね? でしたら動物種と人型種について話しましょうか』

「あぁ、頼む」

『承りました』


『この森に生きる動物種ですが、筆頭は狼です。

彼らは獰猛で知能が高く、それでいて狩りに飢えています。その為雌雄の関係無く狩りに出向き、狩りの中で成長していきます。ただその生態上非常に脆く、短命で、長くとも十年でその生涯を終えます。

代わりに一度に産まれる子の数も多く、一度の出産で最低でも五匹は産みますね』

「それは、また妙な生態だな」

『この森で数少ない肉食ですので、繁栄した結果がこれなのでしょう。

……………あぁ、お二人が殺していましたが全く問題はないのでご安心ください』

「それが聞けてよかった」

「うん」


筆頭とか言われたから死ぬほどびびったわ。

これで生態系が崩壊しましたなんて言われたら、俺はこのままこの森を全部焼け野原に変えてたわ。

うんうん良かった、本当に良かった。


『次は齧歯類ですね。

昼はリス、夜はネズミとそうして住み分けがされており、活動場所もリスは高所、ネズミは低所と別れております。この森でおそらく一番上手く生存している動物たちです。個体数はそんなにいないので、あまり捕獲等をしないでいただけると助かります』

「無差別に捕獲する事も、殺す事もないから安心してくれ。生態系を壊す事が目的ではないからな」

『ありがとうございます』


あまり見かけないとは思ったが、個体数が少なかったのか。食料は豊富だが、その反面に狼が狩り中心で数も多いから個体数を減らして割合的に多くの個体数が生き残るように進化したのだろう。


『次は鳥類ですが、彼らはこの森に生息している訳ではありません』

「ん? あー、森の外から来ているのか?」

『その通りです。彼らの多くはこの森の隣、大峡谷に棲家を持っています。ですがあそこは此処よりも苦境でして、彼らが満足に餌を取る事が出来ないのでこちらに餌を取りに来ています』

「………あぁ、自由に飛べないからか」

『はい、この森には彼らに子供が飛ぶには悪影響になる物、それに子供の命を落とす可能性がある物が多いので、彼らの殆どは峡谷で生息しています。

今の時期は丁度子供が孵ったばかりなのであまり目撃していないと思いますが、半年ほどしたら飛べるようになった子供たちが此処に食事に来るので、それは中々に見応えがありますよ』

「ほう、それは是非とも見たかった物だな」

「そうですね、機会があれば見たいですね」


流石に半年も此処に滞在したくは無い。

伸ばして一週間、普通にいくなら三日だな。特に興味が持てる様な奴が居ない限り。

気分的には採取したキノコ類や毒草の加工が終われば出発するしな。俺もグレイスもそこまで滞在する魅力を感じられないしな。

俺とグレイスの興味を誘うのならば、



『それでは、この森の人型種について話していきましょうか』


この話の内容次第だな。

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