若き龍は、王の盟友が盟友である由縁を見た

我らが龍王陛下と龍王陛下の盟友殿が戦闘を執り行うと話があり、街に被害が出ない様に防壁を貼る様に命令が下された。命令でもあるので誰も断る事なく、ついでに久しぶりの陛下の戦いが観れるという事で、若干盛り上がってはいた。

それで今回陛下と戦うのは、陛下の盟友殿。

己も何度か話した事があるし、食事を共にした事があるが、戦っている姿は見た事がなかった。父や母に聞いてみたが、無いらしい。という事は今回が初戦闘、戦いに長けているという話を聞いた事はないが、大丈夫なのだろうか? 一応自らの根源に触れ、魔法を多少扱える様にはなっているらしいのだが。

………本当に陛下と戦えるのか? 今回の戦いは龍王の座を掛けた儀式としての戦いではないらしいのだが、それでも戦いは戦いだ。




数日が経ち、何百回も防壁を重ね掛けた戦場が出来上がった。少なくとも我々若いドラゴンのブレスでは一枚も破れないどころか罅すら入らなかった。

あとは陛下と盟友殿、若いドラゴンは戦いにならないか陛下が手加減しての勝負になるだろうと推測していた。盟友殿と交流が深いドラゴンたちは絶対に何かやると断言し、老いたドラゴンは傷を付けるくらいはすると言っていた。切り捨てるには、どうにも拭い切れない違和感を何処か感じていた。


風を薙ぎ倒す様な轟音と共に陛下が姿を見せた。

盟友殿を頭に乗せた状態で、真体である巨龍の状態で現れて、そのまま距離を取って相対する。盟友殿の姿は見ていない内に黒龍の様に黒く艶やかな羽と翼が生えており、黒龍勢が大歓喜していた。

それはさておき、陛下は人型で戦うと思っていた我々は響めきを隠し切れず、そんな我々を放って笑いながら二人の戦いは静かに淡々と幕を切り開かれた。



形式を形にするならば、魔法戦だった。

幼龍が魔法の練習をするために行う遊びの様な物。

それを行なっているのが陛下であり、盟友殿が陛下の魔法を片端から相殺していなければの話だが。


陛下の魔法は不定形、球状や円錐、槍や剣などの形以外にも狼や蛇、蜥蜴や魚の姿を形取り、自由自在に動き盟友殿を襲い続ける。

対して盟友殿は常に自身の周囲に複数の黒い球状の魔法を浮かべながら、あらゆる方向から飛んで来る陛下の魔法に自身の魔法をぶつけて相殺、いや内側から陛下の魔法を崩壊させ続けている。


魔法の数は増加し続け、戦いは激しくなる。最初は十数個であった魔法は気が付けば数百個にもなり、今では千を裕に超えている。

何発か捌き切れずに当たっているが、それでも殆ど崩壊させ続けている盟友殿。顔はまだ笑みを浮かべているし、体の周囲に浮かばせた魔法は、未だに浮いたままである。


「...穿て、バーラ」


陛下の魔法の数がもうすぐ数万になりそうな時、盟友殿の魔法制御の精密性に驚いていた中、静かにそんな言葉が盟友殿から溢れる。

その瞬間、飛び交う魔法を潜り抜けるように盟友殿の周囲に浮かんでいた魔法が飛び出した。曲がり、急停止し、加速を繰り返して七つの魔法は飛び続ける。

真っ直ぐに穿つのではなく、陛下の周囲を飛び回りフェイントを掛けながらタイミングを狙い続ける。まるで生きているかの様に動くその魔法、陛下の魔法行使と魔法操作にノイズを走らせながら、ほんの一瞬0秒以下のタイミングで動きを変える。


魔法が狙ったのは、首元。翼を潜り、目の前を潜り、腕の間を潜り、離れて垂直に飛んだ四発。陛下が当たった事を認識し、一瞬防御姿勢が薄れた瞬間に再度別々の方向から飛んだ三発。

陛下に傷は、無かった。だがそれでも確かに魔法を直撃させ、陛下に身じろぎさせた。その事実に観ていたドラゴンたちが驚く中で、陛下は口を開き始めた。


「ヒットだな、痒い程度だがヒットだ。

それじゃあ攻守交代だ、まぁ最初は攻撃しないから存分に攻撃するが良い」

「やっとか、ちょっと待て...ふぅ、よし良いぞ」

「いいなそれ、羨ましいぞ」

「全然余裕なんだから我慢しろ、それよりこっちの攻撃だろ? いくぞ」

「うむ。俺の防御を超えてみせろ、出来るだろ?」

「手応え全然無いが? まぁやれる限りはやるけどさ、期待が重いんだよお前」

「久しぶりに楽しんでいるんだ、ちょっと自重が効かないだけだ」


痒い程度、その言葉は信じ難かった。

並の成龍の全力のブレスですら、その言葉を引き出せなかった。つまり、あの瞬間のあの魔法。それほど高い魔力が込められているわけでも無い一撃が、成龍のブレスを容易に超える一撃であるという事。


「さてと、じゃあいくぞリーズィ」

「来るがいい、ドラコー」


これが陛下が、龍王陛下が認められた盟友!

陛下が隣に立つ事を認められた、唯一人の存在!

ようやく、己は理解出来た。何故あの方が陛下の盟友であり、我らの生涯の盟友であるのかを……!!

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