半呪半龍という生物の根源
俺の種族が人間どころか何もかもを超えて世界で唯一無二の種族になった事が判明した日から、数日。
歩く事にも慣れたので走る特訓を始めつつ、リーズィに魔法を教えてもらう事にした。
勿論実戦じゃ無くて鍛錬とか座学の形式だが。流石に実戦でリーズィに教えを乞う程命知らずじゃない。
死にはしないけど、たぶんまた歩けなくなる。
「それじゃあ始めるとしようか」
「あぁ、よろしく頼む」
「うむ、まずドラゴンの魔法と龍王の魔法どっちから聞きたい? おそらくどっちでも使える様になると思うし、使えるようにするが」
「ドラゴンの魔法で頼む。最初から上級者向けの鍛錬を俺に施さないでくれ」
「分かった、じゃあ龍王の魔法は後日だな」
「………おう」
やっぱこいつも根本はドラゴンだなぁ、戦いと力をつける事に関しては一切妥協しない。
正直龍王の魔法なんて龍峡の中でも使わんぞ、絶対。
「ではドラゴンの魔法だが、その根源は多様だ。
炎、水、土、風、闇、治癒と概ねは区別出来るが、より詳細な内容になると、キリがない。
大概は体色で分かる様になっているが」
「あー、赤いと炎みたいな感じか?」
「うむ、知っていたか」
「前に雑談で聞いたことがある」
「知っているのならば、お前の根源を知るところから始めるとしよう。それを知らねば、教えるのもままならんのでな」
「どうやって知ればいい?」
「目を閉じて意識しろ、肉体の奥深くに宿っている魂のさらに深奥。其処にある根源を」
「あぁ、分かった」
「崩れ落ちるだろうから、寝転がったらどうだ?」
「多分大丈夫だろ」
目を閉じて意識する。
肉体に流れる呪いの波を辿り、心臓のさらに奥に辿っていく。バラバラに砕けて溢れた破片が散らばり、黒い脈が胎動している何もない白い空間を辿る。
ひどく懐かしい痛みが意識の中に芽生えてくる。魂を砕かれる痛み、内臓は炸裂させる痛み、血管を握り潰す痛み、肉を焦がす痛み、四肢を抉る痛みが芽生えてくる。ずっと側にあり、俺という形を作り出したどうしようもないまでに懐かしいそれを越えていく。
芽生えた痛みを抱えて、蝕みを抱えて、死を抱えて白から黒に移り変わる空間を進んでいく。意識を沈めていただけのはずだが、気が付けばその空間を歩いていた。歩くという表現は変だな、進んでいたという事の方が正しいか。足は自由に動かない、思考など碌に回らない、己が今生きているのか死んでいるのか分からない状況で、ただ先を望み、進んでいく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あぁ、ようやく理解出来た。これが俺の根源か。
先はおそらく存在しない。塗り潰されたか、消え失せたか、摩耗したか。分からないが正しい事は存在しないという事実だけ。
俺の根源はこの空間そのもの。
俺の根源は俺と共にあり続けるそれ。
俺の根源は呪い、呪いという概念そのもの。
創世の神に刃を向けてその命を落とし、天より大地に堕とされ悪神となったフルーフ・フェアニッヒ。
その神が生み出した最初で最後の概念。完全を不完全に、不完全を完全にする呪いという概念。
それが俺の根源であり、それが俺の中にある神性であり、それが俺を人という種族から転じさせた存在。
なるほどなぁ、これが俺の根源か。
まぁ確かにそうだ、俺という生物について語るのならばどういった死を体験して、どういった呪いを背負って来たのかを語る方が早い。んでその呪いの原初が何処にあるのか考えれば、一つの終点にしか辿り着かんだろうしな。
ほーー、なるほどねぇ。
まさかまさか、悪神は文字通りの悪神だった訳だ。
変化と進化を望むが故に世界に名も無い悪意を植え付けて、それを否定されたから創世の神を害そうと、殺そうとした訳だ。怨みも呪いも何も無いただ純然な、理由も名前も無い悪意で。
まぁ結果的に神々に意識が生まれて、創世の神も含めて全員変化を享受出来るようになったから、否定出来なくなった訳だ。だから悪神としてフルーフ・フェアニッヒを残してその死体を世界の中に埋め込んだと、まぁそこから呪いが生み出されて、ついでに死体が変質するのは想定外だった様だが。
これは、神々に話を聞く方が面白そうだな。旅の目的が一つ出来上がったな。
さてと、戻るとするか。
さっさと戻って、リーズィから魔法の授業を再開して貰わないとな。
「む、起きたか。意外と早かったな」
「………あぁ、おはよう。早かったって?」
「一月は掛かると思っていたんだがな、十日しか経っていないぞ。まぁ目を覚めるのがいつになるか分からんので、こうして待っていたわけだが」
「そんなに経っているのか...何だこれ?」
「龍の翼と尻尾だな。星が散らばった夜空みたいな色合いで、俺とは真逆だが美しいな」
「……動く、しかも俺の意識で」
「良かったじゃないか、なら飛行訓練もするか」
目が覚めたら羽と尻尾が生えてるって割と怖い気がするんだが? いやまぁ、元々生えているから気にならんだろうけども。
わぁ、すごいしっかり感覚もある。仕舞えないかな、ちょっと邪魔なんだが。力込めたら何とかならんか?
「………仕舞えた」
「強引に仕舞ったな、まぁ後でコツを教えてやる」
「頼む」
「それより、見つけたか?」
「勿論、言った方がいいか?」
「教えてくれ、個人的に気になる」
「そうか。俺の根源は、呪いだ。
あらゆる呪いの側面を内包した呪いの概念であり、原初の呪いそのものだ」
「………ほう、面白そうな根源だな」
「戦わんぞ? 絶対に戦わんぞ?」
「ハハハ」
「おい? リーズィ、何を笑っている?」
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