悪神フルーフ・フェアニッヒ或いは神骸デエスモルト

ドラゴンたちと交流するようになって数百年。

不定期に訪れる黒い波、呪いの奔流だとか言う物を受け止めながら、面白可笑しいドラゴンの話に耳を傾けていたある日。

珍しく誰も訪れずに太陽が中天に昇り落ち始めた頃合い、黒い波が押し寄せる。


「おっと、勢いは弱いままだが密度が上がった?

うーん、これは焦り? 感情が籠った状態で流れて来るのはちょっと珍しい、と言うか初めてだな。

んーーー、この先には死体と不要物だけのはず。

……もしや、アンデッド化している?」


無い事も無いかもしれんが、分からんな。

んぐ………死んだな。胸元に違和感が若干あるのを考えるに、心臓が破裂したか。

実際に欠損することは殆ど無いんだが、欠損したという事は相応に強い呪いという事か。

死なないんだからどうでもいいんだが、意図的に殺そうとして来ているな。呪い背負いを退けると言うよりかは、死者を作ろうとしているのか?


「レイスかアンデッドか、どっちだろうな。

いや、取り込もうとしているのか? 責務とは言えこれだけの呪いを一人で背負わせられたら憎むか。

という事はそれで死んだ魂を取り込んで、そこから呪いを作り出していると考えていいか?

…………うむ、また死んだな。最近あまり死んでなかったから、この蘇生の感覚は懐かしいな」

「……無事なのか、盟友よ」

「うん? リーズィか、どうした今日は」

「この場所から妙な気配を濃く感じてな、白龍に待機を命じつつ此処を監視していたのだ。

あの濃度が高い奔流を見て、心配になってな飛んできたという訳だ。それで無事なのか?」

「無事だよ、二回死んだだけだしな。

残留も無いし、何かが欠損している事も無い」

「そうか、少し話そう」

「おう、妙に感じたら退けよ?」

「うむ」


そう言うと人型に変化して、俺の前に座る。

いつもと違って翼を広げたままなので、警戒しているのだろう。重心も落ち切っていないような気がするし。


「さて、この地に神の骸と神の不要物が落ちているというのは伝えただろう?」

「聞いたな、ついでに最奥には死ぬほど大きい穴があるとも聞いたぞ。そこに何か変化でもあったか?」

「あった」

「へぇ、それは何だ?」

「大穴の底が見えた、観測していた者曰くほんの一瞬だけだったそうだが」

「ふーん、つまり穴から湧き上がっている呪いが減少している。もしくは無くなり始めていると考えているのか」

「あぁ」


なるほどねぇ、じゃあ俺の推測は概ね合っているわけだ。

呪い背負いがいなければ世界に呪いが溢れ、呪い背負いが死に続ければ大穴の呪いは増え続けるという訳だ。

そりゃ、不老不死どころか死んでも蘇生するような奴が呪い背負いになるだなんて大穴の奥底に入る奴は考えないし、呪い背負いが世界を憎まないのも想定外だよな。

となるとこれからドラゴン、というよりかはドラゴンと神か。ドラゴンが実行し神が何かを行う。それで大穴の中に入る奴を何とかするんだろうな。


「さて、じゃあお前はというかお前たちか。

お前たちはこれから何をするんだ? ブレスを大穴に叩き込むだけじゃないだろ?」

「あぁ、もう少し待つことになるが俺たちは大穴に入る。

大穴の中にいるであろう奴、死した悪神フルーフ・フェアニッヒを消し飛ばす。

それでこの地に染み付いた呪いは消えずとも、二度と呪いが大穴より溢れ出てくる事を無くす」

「無くなるのか? 神が再び堕ちれば呪いは再び溢れるだろ?」

「うむ、それは懸念事項であった。だが先程あちらから接触があってな、大穴の底にいる骸を消し飛ばせば大穴とその周辺の大地を回収するとのことだ。

それが可能かどうかも見せてくれたのでな、動くことにしたのだ」

「ほーん」


見せたということは、何処かしらを回収したんだろうな。

というかフルーフ・フェアニッヒか。随分とまぁ素敵な名前の神様だこと、死んで消えるには惜しかっただろうな。

それに呪いを消し飛ばすのならば、俺とドラゴンの交流は終わりだな。

次は何処に行こうかな、まぁ全くもって何処に何があるのか知らんからなぁ。当てもない旅を始めるのも悪くはないだろうな。


「無関係の様な顔をしているが、お前のおかげだぞ今回この作戦を行えるのは」

「ふぁ?」

「お前が呪いを背負い続けてくれたおかげで呪いが薄まり、俺たちで神の死体を観測しその近くまで向かい、消し飛ばすことが出来るようになった。

終わったらお前を正式に龍峡へ招待するからな、我らドラゴンの盟友としてな」

「ま? ただ此処に座ってお前たちと話してただけだぞ。

そんな何かをしたという記憶も無いしな」

「いや………そうだな、だが感謝しているのは事実だ。

お前のおかげで昔よりも遥かに龍峡は賑やかで、活気がある場所になった。

戦いしか知らなかった俺たちに、文明を与えたのはお前だ。その分の感謝も含めて龍峡に招待したいんだ、俺の盟友よ」

「さよか、じゃあお邪魔しようかな。

友人に住んでいる場所へ誘われたのならば断る理由は無いしな」

「あぁ。そうだ、友よドラゴンになる気はないだろうか?」

「何を言ってんだお前、まぁなれるならなるけど」

「そうか、では楽しみにしていてくれ」


何を言ってるんだか、そんな種族なんてポンポン変えれるような代物じゃないだろうに。如何にドラゴンの王とは言えども、無理だろ。

………もしやあれか? 魔法で姿を変えるのか?

それなら、いけるな。ドラゴンが人型になるのだから、逆に人間がドラゴンになるような魔法を編み出すことも出来るだろう。たぶんそうだろう、楽しみにしていよう。




「そうだ、これから消し飛ばす悪神の死体には別の名前を付けておこうという話が出たんだが、その名前を付けてくれないか?」

「俺が?」

「うむ」

「そうだなぁ、神骸しんがいデエスモルト。とかどうよ」

「ほう、良いな。ではこれか一年以内に我らは精鋭を持って神骸デエスモルトを灰燼に帰す事とする。それまで龍峡への招待は待っていてくれ」

「あいよ、短いな」

「そうだな、直ぐにお前を迎えに来るさ」

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