漸く叶う唯一の友と舞う天空

空を黒雲が覆い尽くし、ポタポタと雨が降り始めているその日、龍峡より百を裕に超えるのドラゴンが飛び立った。


先陣を切るのは赤き龍、他の龍と違って細い胴体に捻れながら後ろに伸びた双角を持つドラゴン。

滑空するかの様に進むその赤龍にしっかりと続くドラゴンたちと、その姿を眺めつつ進む先を睨む巨龍。

バチバチとした黒い雷を口から漏れ出せながら、その巨大な翼を羽ばたかせながら追う巨龍。


ドラゴンたちは森を越え、山を越え、黒い水の波の様で水の波ではない何かが流れ続ける谷を越え、大穴の上空にたどり着く。

黒い霧を出しながら、絶え間無く黒い波を流し続けるその大穴に辿り着き、巨龍を除くドラゴンたちは雲を切り裂きながら高く飛び上がる。


カッ、と大穴の上の雲が多種多様な色に輝く。

赤い色、青い色、黄色い色、緑色、灰色、黒色、白色など多様な色に輝き、そして力の奔流が降り注ぐ。

空間を軋ませ、空を覆う雲を吹き飛ばしながら炎の形を持ったその力は大穴に降り注ぐ。


パキン


はっきりと明確に、崩壊を告げる音が響く。

絶え間無く流れ出ていた黒い波は勢いを弱め、大穴を覆っていた黒い霧は吹き飛ばされた。

そして大穴の底にある“それ”が顔を出した。

創世の神に刃を向けて殺され、この地に廃棄されたその骸。呪い背負いたちの全てを喰らい取り込んでもはや元の形を失った“それ”は、音にも声にもならない何かを大穴の底から鳴り響かせる。

それをただ何の感情も持たずに巨龍は見下ろし、大穴への降下を始める。


「■■■■■■■■■■■■!!!!!!」


形容し難い何かを再び、今度は巨龍に向けて鳴り響かせた“それ”は無数の黒い手を大穴から伸ばす。

捻れ、曲がり、腐り、朽ち果てながら黒い手は巨龍の腕に、足に、翼に、尾に、角に伸びる。


だがそれら全ては溶ける。

巨龍に近づいた瞬間に腕は溶け、灰色の煙となって何処かへと消えて行く。

それでも尚黒い手を伸ばし続ける“それ”を、巨龍はその腕を持って掴み取る。

触れた時点で灰色の煙を上げる“それ”は鳴り響かせていた何かと共に消えて行く。



そして現れたるは神の骸、その真体。

それを納めていた筈の器すらも供物としながら世界を呪い続けた真体。

悪神フルーフ・フェアニッヒの心臓は、死して堕とされてなお、脈打っていた。

それを巨龍、龍王リーズィ・ウルティム・ヴィクトリーツァは掴み上空に投げ飛ばす。


「死ぬが良い、神骸デエスモルト」


その一言と共に解き放たれたブレス。

大地を、空気を、空間を巻き込みながら解き放たれる黄金の輝きを放つ一筋の煌めき。

大穴を内側から消し飛ばし、龍峡を越えたその先まで衝撃を伝えながら伸びる一撃。

それは投げ飛ばされた心臓、神骸デエスモルトという最も己に近しい存在に名付けられた死に損ないを飲み込み、空を晴らす。

空を覆う黒い雲を消し飛ばし、広がっていた夜の闇を昼と見間違えるほどの輝きで包む。


数秒か数分か数時間か、分からないが確かに伸び続けたそのブレスが止まった時。

神骸デエスモルトは跡形も無く消し飛ばされていた。

龍王のブレスに巻き込まれない様に離れていたドラゴンたちが大きな歓声を上げると共に、嘗て大穴があった大地の近くが輝きを放ち、空へ浮かび始める。

困惑するドラゴンたちを飛び上がった龍王が即座に叱責、龍峡への帰還を指示し己も同様に動き始める。

他のドラゴンとは違う、先程まで黒い波が流れていた窪みに沿う様に帰還する。

浮かび上がっている大地に目を凝らしながら、飛び続ける龍王はある存在を見つけて笑みを浮かべながら、大きな声を上げる。それと同時に自身の巨体を変化させ、200センチ程度の羽と尻尾と角が生えた人型へと変化させる。




「友よ! 手を出せ!!」

「…あぁ! リーズィ!!」


座っていた人間、ドラゴンの責務を幾度も死にながらも背負い続けてくれた友の手を取り、背中に乗せる。

多少飛び難くはなったが、龍王リーズィはその跳び難さが心地良かった。


「終わったんだな、それも無事に」

「勿論だ、だって俺だぞ? 成し遂げて当然だ」

「疑ってねぇよ、まぁあのブレスには驚いたが」

「くはは! 見せたことは無かったからな!」


先程までの冷静で冷徹で冷酷さが嘘の様に、リーズィは賑やかに背に乗せた友と話す。

背に乗った男も笑顔で話しつつ、空を眺める。


「しかし、心地良いんだな空を飛ぶってものは」

「であろう? 漸くお前と共に飛べたよ」

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