ドラゴンの治癒の権能

「今日は私がお相手を務めさせて貰いますね。

白龍ヴァイス・シュテルン。どうぞヴァイスとお呼びください」

「うん? あぁ一番最初の時に最後まで残ってた白龍さん? 多分本来なら俺の代わりに呪い背負いになってたとか言う」

「どなたから聞きました?」

「リーズィが最初で、あとは老龍組合の人らから聞いたな。みんな当たり前の様に言ってたぞ」

「なるほど、ありがとうございます......後でブレスを叩き込んでやる」


リーズィと出会い、話し相手を要求してから数ヶ月。

最初はリーズィしか来なかったが次第に色んなドラゴンが来るようになって、色んな話しを聞いた。

太陽を飲み込んだ蛇を殺した話とか、龍峡のドラゴン全員で食べ切るまで一ヶ月掛かった魚の話とか、すごい興味深い話が多かった。

6時間程度で良かったのに殆どのドラゴンは半日くらいは話し続けて、リーズィに関しては三日間ずっと居座っている事もあった。

そんなこんなで今日の話し相手は、白龍のヴァイス。

老龍組合の人曰く、龍峡の数少ない治癒の力を持っているドラゴンらしい。


「さてどんな話しをしてくれるんだ?」

「そうですね、ではドラゴンの治癒の力についてお話ししましょうか」

「いいじゃねぇか、是非とも聞かせてくれ」

「はい、っと忘れるところでした。

こちらが今日の食事です、野菜を焼いた物です」

「おぉ、感謝する」


人間の食文化についてリーズィが聞いてきたから、料理だとか味付けだとかを伝えたらそれ以降定期的、というかほぼ毎日その日の食事の一部を持ってきてくれるようになった。まぁ味付けなんてされてない、素材そのままの味が基本なんだがな。


「さて、龍峡のドラゴンは個体として完璧で、完全なのです。寿命で死ぬ事も殆ど無く、戦いで死ぬ事も基本的にありません。なので治癒の力というのは基本的に私たちには不要な物なのです」

「らしいね、確かドラゴン同士で殺し合って死ぬ事例の方が多いんだっけ? それで傷は自然に治癒するのを待つのが絶対なんだっけか」

「えぇ、そうです。なので私の持っているような治癒の力を使う事はまずありません。

ですが、子を孕んだ母体と新たに産まれた子にだけは治癒の力を使用します」

「ほー、何故だ?」

「死んでしまうからです。

龍峡は龍王の力が染み渡っている、それ故に弱る母体と力無き子は龍王の力で死んでしまうのです」

「なるほどねぇ。確か龍王の力はドラゴンが成長するために必須なんだったか?」

「はい、龍王の力を体に取り込む事で魂を鍛え、気高きドラゴンとなります。母体と子はその力を吸い込みすぎてしまうので死んでしまうという形ですね」

「なるほどなぁ、そいつはちと難儀だな」

「そうですね、ですが仕方のない事です」


まぁそりゃそうだわな。

そもそもリーズィの話じゃ呪いが龍峡まで流れて来る事もあって、それからドラゴンを守るために力を染み渡らせてるって言ってたな。

龍王にしか伝えられていない事実らしいが。


「因みに治癒の力はそれだけ?」

「呪いを打ち消す力と、普通に傷を癒すだけの力もありますよ。

使ってみます?」

「呪いの方はいいや、傷の方はお願い出来る。?」

「分かりました、久しぶりに使いますので少々時間をいただきますね」

「おう」


そう呟くとヴァイスは空に飛び上がり、翼を大きく広げ、咆哮と共に白く輝く光の球を降り注がせる。

落ちてきた光の球を手で受け止めてみれば、黒焦げていた手が元の肌色に戻っていく。

治癒の力ってよりかは、巻き戻しみたいだな。時間が経ってズタボロになってた皮膚も治ってるし。


「我らが王の盟友、かの者の傷を癒せ」

「あん? おぉ、すげぇ光景だな」


降り注いでいた光の球がふわふわと動き、俺の体の引き寄せられるかのように動いて来る。

全身を包み込んできたかと思えば、輝きが緩みながら俺の体の中に取り込まれていく。すると全身に残っていた傷痕が根本からスッと消え去っていく。

切り傷も、抉られ痕も、凹みも、貫かれた痕も、焼印も、烙印も全部綺麗さっぱり消えていった。

光が全て消えた後、そこに残ったのは全裸の男の姿だけ。そういや服を燃やされたままだったな。

ドラゴンは気にしないし、俺も別に気にならないから放置してたけど、尻に石が刺さって割と違和感が強いな。布が欲しいな。


「ふぅ、終わりました」

「お疲れ様、結構疲れる感じ?」

「そうですね、今の規模はあまり連発は出来ません。もう少し程度を下げるならそこまででは無いのですが、流石にあれだけ肉体に刻み込まれた傷を消すには今のでないと難しいと判断しましたので」

「おぉ、ありがてぇ。ついでにさ、何か布とか毛皮とか貰えない? ちょっと尻に石が刺さって、痛くは無いけど違和感があってさ」

「布、ですか?」

「そうよ、何かの毛皮とかでもいいけど」

「………!! あぁ、王が最初に焼き尽くしてしまったあの皮膜の様な物の代わりですか?」

「それそれ、あれってさ服って言うんだけど、人間は服を着るのが普通だからさ。

ちょっと着てない今の状況は違和感があってな」

「なるほど、それでは明日、代わりになりそうな毛皮を持って来ますね」

「よろしく、ならもうちょっと話そうぜ」

「では私の家族の話をしましょうか。

父は龍王の地位を争ったくらいには荒々しく、猛きドラゴンで.....」

「へぇ、そんな事が....」

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