呪い背負い《名を忘れた少年》
「ほう、死なずの呪いを掛けられたと。
で此処の影響で死なずの呪いが、不老不死の呪いに変化したと。そういう事か」
「そうよ、多分ね。
俺だってねぇ、もうどれだけ時間が経ったか分からんし、その癖年取った感全然無いのよ」
「そうなのか? 人間をこうしてしっかり見るのは初めてだからな、その所々焦げてるのは元々か?
それとも俺の炎が原因か?」
「これ? 何でだっけ?
原因全く分かんねぇな、てか覚えてねぇ。
傷は増えたり、減ったりするし分かんねぇな」
山の如く巨体を持つドラゴンと死と生を繰り返し続ける少年が和気藹々と会話を続ける。
巨体のドラゴンに着いてきていた他のドラゴンは白と赤と黒の三匹のドラゴンを残して既にこの場から飛び去っていた。
少年は意気揚々と腕を毟り取って焦げた指を眺めつつ、当然の如く生えてきた腕を振り回す。
それを巨体のドラゴンは興味津々に眺めては話す。
「そうだ、お前の名前は何と言う?
人間は誰しも名前を持つと聞くからな、聞きたい」
「俺の名前? ちょっと待ってくれよ。
………………忘れたな、全く思い出せん」
「何!? 名を忘れて影響は無いのか?」
「別に無いんじゃない? そもそも何億回も死んでるのを人間扱いしていいのかって話よ」
「うむ? それはそうだな、俺たちとて一度しか死ねぬしな。生命としてどうなんだ?」
「呪いだから仕方ねぇな!! この背中にのしかかってる呪いで強化されてるしな!!!」
「そうだな!!!!」
ガッハッハと大きく笑いドラゴンと少年。
そんな彼らを他所に黒い波が少年の遠く後方から押し寄せて来る。それを見てドラゴンは目付きを変えて、上空に飛び上がる。
巨体のドラゴンは少年に逃げるように大声をだす。
「呪いの奔流、逃げよ!!」
「うん? あぁこれそんな名前なの?」
「戯けが!! そんな事は良い避けよ!!!」
「これくらいなら別に、どうでも無いぞ?」
そんなドラゴンの心配を他所に、少年は黒い波を避ける事なく受け、波は全て少年の体に飲み込まれる。
水が穴の中に流れ込むかのように、数時間程度は少年の体の中に波は流れ込み続ける。
その中で少年は数千程死にそして蘇っていた。
ただ何を思う訳でもなく、まるで日常の一コマのようにその波を受け続けた。
「生きているのか?」
「たりめぇよ、こんなもん数百回は受けたわ。
最近は勢いが全く強くねぇけどな!!」
「……お前は何故ここにいる?」
「来た経緯に関しては覚えてねぇけど、確かここに居た赤いドラゴンに何か言われたら呪いが押し付けられて、それからはずっとここにいるなぁ」
「……………そうか、お前が俺たちの代わりになってくれて居たのか」
「あん? どう言う事だ?」
波が消え去り、それでもなお平然としている少年。
そして少年から出たこの場所に滞在し続けている理由を知った巨体のドラゴンは、真実を話した。
この場所が何であるのか、この場所に縛られるのは一体どう言う事なのかを。
「この地には創世の時に神が不要だと判断し廃棄された物と創世神に刃を向けた悪神の死体がある。
それらは常に生命を、世界を憎み続け、どうしようもないまでの呪いを世界に向けて流し続けている。
ここはそれが世界に向けて流れ出る唯一の通り道であり、俺たち龍峡のドラゴンはこの場所で呪いを受け止め続けると言う責務があるのだ」
「ほーん、じゃあ俺に押し付けた奴はその責務の真っ最中だった訳なんだな」
「あぁ...何だその姿勢は?」
「気にするな、座り続けて腰が痛いんだ」
「そうか、まぁそう言う訳でその責務を担う事を我らは呪い背負いと言い持ち回ってきた。
先程の呪いの奔流を相殺し、その隙に此処で死したドラゴンに変わって責務を負う。それを繰り返し続けてきた。今日はその変わりの責務を果たすために来た」
「ほーん」
「興味が無さそうだな、割と重要な話なんだが」
「実際興味ねぇしなぁ」
歴史学者でも無い少年にとっては興味が一切湧かない古臭い昔の事情。
少年にとって重要なのは、暇を潰せるかどうか。
巨体のドラゴンの話しは、暇を潰せるが興味の対象にはならなかった。
そんな話よりドラゴンの強さを語られる方が暇を潰せるなぁ、と思いながら聞いていた。
「まぁいいじゃねぇか。
俺がお前らの代わりに呪い背負いをやってる、不老不死の呪いがある俺は一生死なずに責務を果たせる。
それでいいじゃねぇか、お前らが気にするような事じゃねぇだろ。そもそも神の過失の癖にお前らが対応してんだ、創世神とやらにやらせろよ」
「それは....そうだな。
何で俺らがやってるんだ? まぁやってる事は仕方ない、やり続けるしかあるまい」
「そうかー、じゃあしゃあねぇな!」
「うむ!!! あぁ、そうだ何か願いはあるか?
呪い背負いを変われだとか、何でも願いは聞くぞ」
「願い? ちょっと待てよ?
あ! 呪い背負いは変わらなくていいぞ!
そろそろこの馬鹿げた量の呪い、その全ての解析が終わりそうなんだしな!」
「ま?」
「マジだよ」
突然降って湧いた願いを叶えて貰える機会。
少年は珍しく悩んだ。
折角の暇つぶしの機会、それを容易く手放したくは無いと思って悩んだ。2分くらい。
「じゃあさ、毎日話し相手を寄越してくれ。
此処で一人なのは暇なんだ、滅茶苦茶」
「む、そんな事で良いのか?」
「おう! 暇つぶしにちょうどいいじゃねぇか。
あぁ、話に来るのは誰でもいいぞ。話し相手が出来るなら誰でもいいしな。
時間もそうだな、6時間くらいでいいぞ」
「そうか、そうか。
では俺の名を持ってそれを確約しよう」
「名前?」
「うむ」
「龍王リーズィ・ウルティム・ヴィクトリーツァの名を持って、貴様の話し相手を用意する事を約束しようではないか!!!」
「あ、ついでに友達にもなってくれ」
「良かろう!! 今日からお前は俺の盟友だ!!!」
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