暴露~奪われ 九
女のあとを追いかけようと
その間にも、
つまらない攻撃しか仕掛けてこず、それなのにこちらの攻撃が通らない苛立ちに、陸王はいっそ無視して追いかけようと炎の壁を回り込もうとしたが、その時になって一瞬の攻撃から静止の攻撃があった。男が陸王の眼前で動きを止める。はっとして陸王は吉宗の刃を咄嗟に目前に翳した瞬間、刃に重みが加わると同時に高音が鳴り響いた。刃と二〇本の爪がぶつかり合ったのだ。
上から物凄まじい力をかけられて、陸王は腹にぐっと力を入れて刀を取り落とさないように堪えた。弾き返さねばと思いつつも、真上から押さえつけられているので上手くいかない。
それに対して、至近距離から見る男の紅い瞳は楽しげに笑んでいる。それは心底楽しんでいる顔だ。長く伸びた爪が、徐々に陸王の目玉に近づいてくる。爪がじわじわと伸びてくるのだ。
もう瞳と爪の距離は数センチもない。
と、その笑みの陰から、身の毛もよだつ言葉が聞こえてきた。その言葉に射竦められたように、突然男は動きを止めて呻き出した。陸王もまた、ぴたりと動きを止めて全身に走る痛みを堪えねばならなかった。
この痛みの元は、紫雲の詠唱する
陸王が火の壁を回り込もうとしたとき、魔族は攻撃のために紫雲を放って、陸王の方へと動いた。陸王を攻撃するために一定箇所にとどまったのだ。その止まった瞬間を紫雲は見逃さなかった。さっきまでは女の動きに合わせて防御に専念していたが、もう紫雲の邪魔をするのは男の方だけだ。しかも、陸王に攻撃を仕掛けて動きが止まっていた。この機を逸するわけがない。
これは、
地面に降り積もった肉片はもぞもぞと蠢いていたが、それを陸王が蹴散らした。核を探すためだ。陸王は男の身体をかなり細かく刻んだ。厚めの細切れ肉のように。これだけ細切れにすれば、核が姿を現しているはずだ。
だが、核はどこにもない。肉片は全て散らして、既に地面が見えている。なのに、核がどこにも見当たらないのだ。
これでは後顧の憂いを断つことが出来なかった。男を紫雲に丸投げしても良かったのに陸王が残ったのは、前後を挟まれる恐れがあったからだ。雷韋が攫われても我慢をして残ったのに、どうしてか魔族の肉の中から核が発見されない。それでも魔族の肉は蠢いている。一つに戻ろうとしているのだろう。
「核は?」
紫雲が陸王の元へきて問うたが、陸王は険しい顔をするだけだった。あるはずのものがないというのがおかしいのだ。その間にも、肉片は一つところに固まり始める。
陸王は見当たらない核を探すよりはと、懐からあのときの魔族の核を取り出した。男に擬態した魔族にも核は必ずある。だが、それを目視で確かめられない。だったら、別の核を植え付けたら拒絶反応が起こるのではないかと考えたのだ。上手くすれば、両方の核が一つの肉体を奪い合って肉が崩壊するか、あるいは反発し合って核そのものが壊れるのでは、と。
肉の破片が寄り集まって
核はずぶずぶと音を立てて、肉片の中に飲み込まれていく。少しすると形が定まってきたが、それは男の姿形ではなかった。だからと言って、本性の姿でもないだろう。何故なら飲み込まれた
あのときの小男の魔族に。
「う、う。
陸王は舌打ちした。何の障害もなく素直にこの姿になったという事は、元々あの男の魔族に核はなかったのだ。だからと言って、気配は下等な魔族のものではなかった。確かに中位の気配だった。と言うことは、あれは肉だけの、形だけの魔族だったという事になる。本体は別にいる。それは当然、あの女だ。その証拠に、雷韋を攫うだけにとどまらず、妖刀を奪っていったことからも分かる。分裂した自分を囮に使って、本体であるあの魔族は逃げ去ったのだ。
陸王は、
「こいつの始末をしておけ」
乱暴に紫雲に言い放つと、火の壁を迂回して駆けて行った。
「待ちなさい!」
紫雲もあとを追おうとしたが、下位とは言え魔族が目の前にいる。これを放っておくことは出来ない。
今度こそ紫雲は、終わりの神聖魔法を浴びせかけた。
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