暴露~奪われ 八
不意を突かれて、男は
陸王はその勢いを殺さぬままに、男の身体の中心に突きを放った。魔族は驚いたような顔をしたが、すぐに口元に笑みが広がる。それをよく確かめもせず、陸王の刃は魔族の身体の真ん中から右横へと振り抜けられた。だが、この魔族は人の姿に擬態しているだけで、陸王のように人と同じような機能は有していない。だから肺と心臓にあたる場所を真横に切り裂いても、
その事実に腹の中で毒づく。ならばと今度は首を素早く落とした。首の付け根から血が噴き出す。だと言うのに左腕をぶら下げまたまま右腕が素早く上がり、陸王目掛けて妖刀が降ってきた。すんでの所で陸王は躱したが、その時目にした首は地面に転がりながらにやにやと笑っていた。血を一筋、口の端から垂らして。
その遣り取りは一瞬のことで、魔物とも魔族ともつかない雑魚が突然燃え上がった。
陸王ははっとする。
周囲は火の海だ。倒木が燃え上がり、魔族も燃え上がった。辺り一帯で火の手が上がっている。
その時、雑魚の群れは一斉に雷韋目掛けて移動を開始した。燃えながら、それでも雷韋の流す血の匂いに惹かれて、粘液を滴らせながら跳ねて移動する。陸王と
陸王は中位から、一旦距離を取った。炎の中にいる雷韋を捜すためだ。雷韋が熾す炎なら、少年の意思次第で火の温度を調整出来るのだ。高温で一気に燃やせば、下等な魔族など一瞬で灰に出来るはずだ。なのに、奴らは雷韋目掛けて移動している。ぱっと見た限りでも、少しずつ身体の端から灰にはなっているが、陸王が命じたように一気に燃やし尽くしていない。
雷韋の姿は倒木の燃え盛る中にあった。その顔は恐怖に引き攣っている。魔族の紅い目が怖いのだ。それに気圧されて、本来の力が発揮出来ていないと陸王は思う。雷韋が本気で魔術を使えば、それも得意の火の魔術なら、有象無象の魔族など簡単に灰にできるからだ。
「雷韋!」
陸王は怒鳴りつけた。その途端、雷韋が陸王に目を移して、そのまま二人の目がかち合う。それだけで少年は陸王の意を察したのだろう。黄色い瞳の中に怯えが混じりつつも、意思の力が宿った。雷韋がまるで念じるように目を閉じた瞬間、有象無象共が一匹残らず灰になった。地にいるものも、跳ねて宙に飛んでいるものも全て。一瞬にして魔族を襲っていた炎が灰を巻き上げながら消えていく。残った炎は倒木についたものだけになった。その火は消してはならない。雷韋を護るための楯であり、砦だからだ。
下等な魔族を焼く火が目的を終えたとき、陸王は舌打ちした。目の前にしていた魔族が首と腕を取り戻していたからだ。繋ぎ目には赤い線が入っているが、しっかりと固定されている。
陸王が目を離したのはほんの僅かな間だ。その間に男は首を拾い、左腕も繋いだのだ。核が急所である限り、魔族はこうして身体を元に戻すことが出来る。忌々しいにもほどがあった。
その
と同時に、女は男から妖刀を奪い去る。陸王と対峙していた男は妖刀を奪われても慌てることなく、数度大きく呼吸した。得物がなくなればほぼ陸王の勝ちだ。問題はどうやって核を探り当てるか。が、男は陸王の目の前で頭から二つに割れた。切れ目は腰まで達し、そこで止まる。半分になった二つの胴体に、もう半分が内側から盛り上がるように生まれたのだ。一つの下半身に、二つの胴体。
その時、雷韋の悲鳴が上がる。女の腕が雷韋の身体に絡みついたのだ。その腕を軸にして、女は飛んだ。高く燃えさかる火の上を飛んで、向こう側へと着地すると同時に雷韋を炎の中から引っ張り出す。
その動きは一瞬のことで、女の腕は多少の火傷を負った痕はあったが、ほぼ無傷。
陸王はそれを見て雷韋の名を叫ぶものの、女はそのままその場に男を残して森の中へと逃げていってしまった。
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