新たな道行き 六
「お早うございます、
傍までやってきて、
「どうした。妙な顔しやがって」
「いえ」
そこで紫雲は小さく笑って言うのだった。
「陸王さんは以前とあまり変わらない服装をしているので、ほっとしたんです」
その言葉で紫雲が何を言っているのか察した。
「俺も
嘆息をついて、頭をがりがりと乱暴に掻く。
「だけど似合ってるだろ?」
雷韋が
紫雲はそれを困った風に見て、苦笑する。
「似合わないとは言いませんけど、でもその柄は驚きますよ、普通。あまりにも派手です」
「もー! 陸王も昨日びっくりしてたしさぁ、紫雲も昨日会いに来たらびっくりしてたよな? なんでそうなのさ。似合うだろ?」
強要するように二人に問いかけると、陸王が答えた。
「あぁ、バカザルにはお似合いだ」
「あー! またバカザルって言ったぁ!」
紫雲も更に苦笑を深くする。
「流石に『バカザル』は酷いですね」
「なぁ!? そう思うよな!? これまでは『クソガキ』か『サルガキ』程度だったのに!」
「いや、それもどうかと思いますが」
雷韋が鼻息を荒くして紫雲に同意を求めると、紫雲も言葉に詰まる。
だが、そこで陸王が唐突にお
「それより、これからのことだが。街や村には立ち寄れても、宿には泊まれねぇからな。覚悟しておけ」
「それって、他人を巻き込むからだっけ?」
雷韋が言うと、陸王は頷いた。
「どこにどうやって現れるか分からん。だが、目標は俺が持っている魔族の核になるだろうからな、それを目印に夜中に襲われるってな可能性もある」
そこで紫雲が口を挟む。
「ですが、妖刀の持ち主は今まで全てただの人間でしたよ。村は無理だとしても、城壁に護られている街になら宿泊出来ませんか?」
「俺もそいつは考えた。だが、妖刀自体に意思を与えてある可能性もある。魔族も『妖刀を操れる魔族』と言っていた。しかもそいつは俺を狙ってるときてる。妖刀そのものだけでも動けるなら、どう対処すればいいか分からん。この町も、偶然だが魔族に襲われて滅茶苦茶にされている。妖刀そのものが意思を持って動けるのだとしたら、魔族同様、相当厄介だと思うがな。いや、操っている魔族そのものもいる。人に擬態して城壁を越えられる可能性もある。それが一番厄介だ。この町同様、犠牲者も出るだろうからな」
陸王の言葉に紫雲は暫し考え込んだ。
「確かに、そうですね。妖刀はこれまでの情報だと人の身体を介してしか動けないと思っていましたが、妖刀に意思を与えている魔族、ですか。あの魔族よりも強いという事ですから、中位でしょうか。そんなものにこれ以上、人々を襲わせるわけにはいきませんね」
「そいつが飲み込めたなら、この先は俺の言うとおりにしろ」
それは酷く威圧的な物言いだった。
「貴方の言うとおりに、ですか」
僅かに目を
それを見て慌てたのは雷韋だった。
「なに険悪になってんのさ。今は手を組んでる仲間だろ? 誰の言うとおりにしろ、その場その場で決めればいいじゃん。一番いいと思う案を提示した奴の言うとおりにさぁ」
雷韋の言葉を聞いて、陸王は鼻を鳴らして言い遣った。
「行くぞ。そろそろ城門が開く頃だ」
言って、歩き出す。
紫雲はその態度に、小さく吐息をついてからあとを追った。雷韋はいつも通りに陸王の隣につく。そして言うのだ。
「頼むから、喧嘩だけはしないでくれよ? 喧嘩してる場合じゃないんだからさぁ。目的は魔剣だろ! それを破壊するまではみんな仲間なんだから」
分かった!? と最後に大声で問うと、陸王も紫雲も無言で小さく頷いてみせた。
その様子に、二人共が不満満々であることを見て取った雷韋は、頭を掻き毟りながら奇声を発する。妖刀がどんな力を持っているのか分からないのに、最初からこんな風に仲間割れを起こしていたら、破壊出来るものも破壊出来ないからだ。
雷韋は雷韋なりに
始まりから雰囲気の悪いまま東門に辿り着くと、丁度、
この光景自体は以前に見ている。護衛の仕事をしたときにだ。
大扉が開かれて、自警団の男達が出て行く者を優先して通行させ始める。皆、ざわめきながら門を潜り抜けていった。
その中に陸王達も混じっている。
ざわめきに任せて、雷韋は紫雲に声を掛けた。
「紫雲、結局魔剣についてはほとんど何も分かってないんだよな?」
「そうですね。この町の方まで噂でさえ届いていないようです」
「ん~、じゃあ、もっと東にあるのか。陸王さぁ、どうすんだ、これから」
「取り敢えず東に進むだけだ。だが、用でもない限り、人の集まる場所には近づかん」
「え? どゆこと?」
雷韋が小首を傾げて問うと、陸王は雷韋を横目に見遣った。
「例えば、水がなくなった場合、保存食がなくなりそうな場合は人里に出る。今はこのまま東に進むが、途中からは街道からも外れるぞ」
「えぇ!? それって厳しくない!? 保存食はなんとかなるかも知んないけど、水はないと困るしなぁ。節約しても二日くらいしか保たないよ」
どこか情けない声を出す。
「なら、途中でもっと大きな水袋を買え。昨日、俺と一緒に来なかったからだぞ」
「先に言ってくれればよかったのに」
恨めしそうに雷韋は陸王を見たが、その陸王は肩から袈裟懸けに大きな水袋を提げている。
「まぁ、途中までは街道を行くから、その間に街か村で買っておけ」
「む~、そうする」
辺りのざわめきにその声は掻き消されたが、文句を垂れたことだけは陸王に伝わっていた。しかし、陸王は無視する。こんな事くらいで、いちいち付き合っていられないからだ。
雷韋もそんな事は分かっている。声が掻き消されようとどうでもよかった。だから話題を変えてみた。
「魔剣ってさ、持っても、傷つけられても精気が抜かれて死んじゃうんだよな?」
「えぇ、これまで確認されていることはそれだけです」
紫雲が答えた。
「はぁ~、厄介だなぁ」
雷韋のぶつくさに答えたのも紫雲だ。
「呪いがかかっている以上、解呪しかないでしょうね」
「解呪か。それなら俺にもなんとかなるかも知んない。でも、
肩口で振り返って紫雲を見る。
「魔族や悪魔族にかけられた呪いであれば、それを解呪することは出来ます」
魔族は
悪魔族はかつて、
この二つの種族のあり方の顕著な違いは、悪魔族は神聖語も魔代語も両方扱えるという事だ。一定の条件下であれば神聖語で命じれば従がわせることも出来るが、魔族のように言葉に縛られるという事はない。
しかも、魔族と同じように神に呪われた存在だから、呪いを発動することが出来る。その場合は魔代語を使う。つまり、呪いをかけるときには魔族も悪魔族も魔代語を使うため、それを神聖語で中和出来るのだ。
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