行間一

 温度というものを、久しく実感していない。


 あらゆる全てを生み出す根源の中では、何もかもが等しく、無である。


 故に、境界はそこにない。


 であれば、根源は即ち、坩堝にも似た混沌そのものなのではないだろうか。


 一滴、垂らす。


 当然、跳ね返り、波紋を広げる。無限大に。


 究極的には、唯それのみを繰り返すことが興の理であるのだから。


 原始、この地にあるのはただ混沌の霧のみだったという。


 いつから廃興の理が生まれたか定かではないが、少なくともこれを為した者からすれば、世界にとっての最善策であったのだろう。


 少なくとも、その時は。


 だが、託されたその残滓、掌にあるこの結晶がもたらしてくれたものとは何か?


 惨劇の夜、ニヒルの創造性は何者かを救ったのか?


 悠久なる水の使者が言うには、唯一意思のみが理を拒絶するのだという。


 そんなもの、とただ嘆きが波紋となり、消える。しかし無くなることはない。




 



 やがて、伸ばした手さえ見送られ、掌の雫が無に帰した瞬間。


 伝説にある理の主、ニヒルの女神と少女は同一化する。


 いまやその双眸は隈なく、辺境さえ網膜から逃がすことはない。


 枯れた絶望の涙のみが元いた場所の証明であったが、それさえも水という虚の一つとなり果てたのだから。


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