第5話 襲撃

「荷物が重いんじゃないか?」

「へーきへーき」

 綾香嬢はほら行くわよと歩き出す。

 数歩進んで俺がついてこないことに気が付くと振り返って腰に手を当てた。

「そんなに私が一緒だと迷惑なの?」

「いや、そういうわけじゃないが……」

「じゃあ、何よ?」

「夜道は危ないかな、と」

 綾香嬢は鼻で笑う。

「スグルが?」

「まあ、事情があるんだ」

「それじゃあ話してよ。歩きながら聞いていあげる」

 さっさと神社への道を進み始めた。

 面倒だな。

 綾香嬢を巻き込みたくなかったが、今の様子も見られているだろう。

 ならば同行した方がいい。

 俺は急いで追いかけ横に並ぶ。

「悪い話と、もっと悪い話がある。どっちから聞きたい?」

「じゃあ、悪い話から」

「たぶん、この先の道で事件が起きると思う」

「どんな?」

「俺がある物を持っていると考えている連中がいてね。どうしてもそれを手に入れたいようなんだ」

「へーえ。色々と気になるけど、先にもっと悪い話というのを聞かせて」

 俺はスマートフォンのアルバムを開いて綾香嬢に見せた。

「君のお店を滅茶苦茶にした連中がいる」

「ひどい!」

 綾香嬢は画面を次々とスライドさせて写真を確認していく。

「ほとんど売り物にならないじゃない。さすがに取次会社もこれだけ大量の返本にはいい顔しないと思うけど」

「損害保険でカバーするつもりだ」

「まあ、その方がいいかも……。なにこれ?」

 綾香嬢が一際大きな声を上げた。

 画面にはズタズタに腹を割かれたムーちゃんのぬいぐるみが写っている。

「あまりに酷くない? これ、赤い血が流れている人間の所業じゃないでしょ」

 鞄の肩ひもを握る手が震えていた。

 相当ご立腹のようだ。

「ねえ? これってスグルの持っているものと関係があるの?」

 そこへブウンとエンジンを吹かす音が聞こえ、背後から車が突っ込んできた。

 俺は綾香嬢を道路上から突き飛ばす。

 同時に体に衝撃が走って数メートル前方に吹っとんだ。

 俺は前転して勢いを殺すとぱっと立ち上がる。

 いきなり攻撃してくるとはやってくれるじゃないか。

 俺の体は自動的に緊急モードに入っている。

 自己催眠によるバイオフィードバックで一時的に全身の筋肉が肥大化した。

 普通の服ならびりびりに破れてモザイク処理が必要になるところだが、特殊素材のため大きくなった筋肉に合わせて伸びている。

 俺はくるりと半回転するとダッシュして路上に止まっているハイエースのフロントガラスにパンチを入れた。

 そのまま運転席の男の胸倉をつかんで車外に引きずり出す。

 さすがに驚愕の顔を浮かべる男の顔にジャブを入れる。

「こいつはムーちゃんの分」

 鼻血が吹き出した。

 戻した腕でボディ。

「こいつはオーナーの分」

 男の体がくの字になった。

「そして、こいつは俺の分だ!」

 俺のストレートが炸裂する。

 男は宙を舞って地面に落ちた。

「動くな!」

 視線を向けるとハイエースのスライドドアの両側に男が計三人立っている。

 一人は俺に向けて、路肩側の二人は綾香嬢に向けてオートマチックを構えていた。

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