第3話 遺品
公安部に所属していると思われる男は車を止めるとポケットから数枚の写真を取り出す。
「見ろよ。ひでえもんだぜ」
上から写真を順に見ていった。
確かにひどい。
ほとんど原形をとどめていない遺体の写真を見終わると俺は写真を返した。
「なぜ、これを?」
「いや、まあ。お前さんがジョン・ドウを量産するのも困るが、死体袋の中に入ることになるのももっと困るんでね。平和な暮らしに慣れちまうと感覚が鈍るだろ?」
「そいつはどうも」
「この殺されたホアンって男が持っていたものを手に入れるためには手段を選ばねえ連中ってこった。せいぜい気を付けてくれ。俺も上司にどやされたくない」
「俺はこれから店を片付けなくちゃならん。じゃあな」
車から降りると、男は車を発進させた。
まあ、どうせ別の監視が付いているのだろう。
書店に足を向けると近所の連中が遠巻きにしていた。
数名居た警察官は既に引き上げており、制服姿の若いのが一人で店の前に立っている。
「先ほど書いた被害届の受理番号が一週間ほどでお知らせできます。そちらを使って保険の請求をしてください。もう現場は片付けて頂いて結構です」
それだけ言うと警察官は去っていった。
改めて店内を見渡す。
俺が警察署に出かける前と同様にぐちゃぐちゃだった。
ため息を一つこぼすと俺はスマートフォンで店内の様子を写真に収める。
さっき車に乗せられたあいつに言えば警察で撮った写真のコピーを貰えるだろうが、無駄に借りは作りたくなかった。
写真を撮り終えると店内の片づけを始める。
散乱した本はほとんどが売り物にならない状態だった。
店内の本をすべてバックヤードに運び出す。
がらんとした店はひどく寂しく思えた。
まだ配架していなかった本もあるが、この一件が決着するまでは店を開けられないだろう。
損害保険会社に一報を入れておきたいが連絡先は家に帰らないと分からない。
古いポスターの裏に『臨時休業』と書いてシャッターに張り出すと店を閉めた。
家に帰ると書類を取り出し営業時間終了間際だったので先に電話連絡をする。
それから、テーブルについた。
着たままだったコートのポケットからカバーのかかったラノベを取り出す。
パラパラとめくるとすぐに折りたたんだ封筒が出てきた。
封筒を開封する。
他人のものを勝手に開けるのは良くないことだが、この際は勘弁してもらおう。
それにもう所有者は文句をいうこともできない。
封筒の中からはICカードが一枚出てくる。
こんな薄いちっぽけなものが、人ひとりを死なせ、書店を滅茶苦茶にするだけの価値を秘めているのだった。
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