第19話

「そういやそうだな……」

「爆発のタイミングも良すぎたような気もしてて、わたくしたちが冬弥から離れてすぐに起爆するなんてなんだか怪しくありませんの?」

「……偶然だろ」

「冬弥があんなにたくさんの荷物を持つことになったのも?」

「それはみんなのせいじゃないか?」


 冬弥が尋ねると、ウルカは首を左右にふった。


「ちょうどわたくしの猫缶が切れたタイミングでこの特別盗墓に誘われたのですわ。吉田も同じですわ」

「……だから?」

「今回の特別盗墓、最初から仕組まれたものではなくて?」

「おいおい、そりゃ……」


 いくらなんでも考えすぎだと冬弥は思った。 


「だって、期限が一日だなんて急すぎますわ」

「俺は特別盗墓の経験自体少ないからよくわかんないけど……そんなに気になるなら明日にでも薔薇泉さんに聞いてくるよ」

「よろしくお願いしますわ」

「ただし、いったんまひるを疑うのはやめろ。あいつは俺を庇ってくれた。それは事実だ」

「……わかりましたわ」


 ウルカは力強く頷いた。


 彼女と別れて寄宿舎に戻る途中、冬弥はまひるのことを考えた。


 彼女は本音を表に出さない。常に打算的に行動している。それは彼女なりの処世術でもあるのだろうけど、その結果がウルカの疑惑を招いた。


(なんか俺、振り回されてばっかりだな)


 がりがりと頭を掻きむしりながら心の中で呟く。


 かもねー、という声が聞こえた気がした。



※  ※  ※



 ローカスト・ガーデン、三階空き教室。


 まひるは教室の窓から中庭で話している冬弥とウルカを見下ろしていた。


「なぜわたしの武器を破壊したの?」


 まひるの後ろ。月光と暗闇の境界線。机の上に片足を乗せて座っている人物がいた。


 黒いパーカーに迷彩柄のハーフパンツ。全身に包帯を巻いた異様な見た目。


 冬弥が包帯男と呼んだ人物だ。


 包帯男は携帯端末の画面を親指で操作し始めた。


 数秒後、まひるのデバイスにメッセージが届いた。


「……お前が銃口を向けたから、ね。だってあそこであなたを攻撃しないと怪しまれるでしょ?」

「…………」


 またメッセージが届いた。


 デバイスには「お前が怪しまれる分にはかまわない」と表示されていた。


「わたしから情報が漏れるとは考えないのね」

「…………」

「それともそんな心配はしていないってことなのかな。ま、別にいいよ。これは取引だからね。今回の分は借しにしといてあげる」

「…………」

「忘れないでね。わたしの武器を壊したこと。それと、わたしの顔を殴ったこと。あと、わたしの右手を折ったこともね」


 まひるは冬弥とウルカが解散するのを見届けると、窓から離れて出口へ向かった。


 教室の引き戸に手をかけたところで、またしてもデバイスにメッセージが届く。


「なぜ邪魔したかって? ……いっておくけど、わたしが冬弥くんをかばったおかげであなたは逃げられたんだよ。忘れないで」

「…………」


 包帯男は返事をせず、携帯端末を握りしめたまま虚空を見つめている。


「それともうひとつ。わたしは別に冬弥くんなんてどうなってもいい。勘違いしないで」


 まひるは包帯男を蔑むような視線で一瞥すると、教室を出ていった。


「…………フッ」


 締め切られた扉を見つめ、包帯男の口元が楽し気に釣り上がる。

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