第3話 仕方がない。子作りをしよう

「キーリー。オレと子作りしてくれ。中身がオレなんて気持ち悪いかもしれないけれど」

 美少女が、何か言いながら僕に迫ってきていた。

(えっ? 何? 何を言われているの僕? 子作り?)

 すでに僕の視界を美少女の姿が埋めていた。胸ははだけていて、赤ん坊を抱えながら懇願してくるその姿は僕に刺激的すぎて視界がくらくらしてしまう。

「いや、ちょっと待て!」

 衝撃的な一言で僕に近づいてきたエイヴェリーと僕の間にクレイグが大きな声と素早い動きで割って入ってきた。ここは馬車の中なのだから危ないと文句も言いたくもなったけれど、逃亡中に揉めるのもよくないと思ってぐっとこらえた。

「そういうことなら、その役目は俺だろう。いやあ、リーダー相手なんて嫌だけれど、仕方ないなあ」

 そう言いながら、楽しそうにズボンを下ろそうとしていた。

「嫌ならしなくていいよ」

 美少女なエイヴェリーがものすごく蔑んだ目で、クレイグを睨みつけていた。

「え、しかし、俺しかいないだろう」

「お前は乱暴そうだから、嫌」

 エイヴェリーの話し方は前と何も変わらないのに『嫌』っていいながら顔を背けるところが妙に色っぽく見えてしまって僕の胸は高まってしまう。

(いけない。これは、すごい偏った感情な気がする……)

 僕はひとりそんなことを思いながら、ズボンに手をかけたままの間抜けなクレイグとエイヴェリーを交互に見ていた。

「そんなことはないって、優しく気持ちよくしてやるって。ちょっと俺のモノはでかいかもしれないけどな。わはは」

 下品なことを言いながら、大きく口を開けて笑う。これもいつものリーダーとクレイグの会話なのだけれど、何か不思議な気持ちのまま二人を見ていた。

「都のいつもの酒場から、また苦情がオレのところに来てたんだけど」

 エイヴェリーは腕を組み顔は横を向きながら、視線だけが鋭くクレイグを突き刺していた。

「ぎく」

「ウェイトレスさんを強引に口説いて、どんなプレイをしていたんですかね」

「ちゃ、ちゃんと謝って、お金も払いました」

 クレイグが大げさに頭をさげていた。

 普段から背も高く精悍なクレイグが、戦士としては小柄な方なリーダーに頭が上がらないのはどこか面白かった。特に今は、美少女に蔑まれていて平謝りしている若い大男の図なのでなおさらだった。

「そうは言っても、キーリーは修行中の身だからエッチなことはできないだろう?」

「え? そうなの? ポロア神様って固すぎない?」

 急に二人が、僕の方へと視線を向けた。

 なんでエイヴェリーもそんなに深刻そうな顔なんだと思ってしまう。

「まあ、正式に神官になれば結婚もできますけれど、今は修行中の身なので禁止されているだけです。あと、当然、ポロア信徒の皆様は恋愛も結婚も自由です」

 僕はポロア神へのマイナスのイメージだけは払拭しないといけないと思いそう説明した。

「そうか……それは困ったな。」

 エイヴェリーは顎に手を当てながら考える。ちらりとネサニエルじいさんの方に視線を向けたのをクレイグは見ていた。

「いや、じいさんはそもそも勃たないだろ」

 クレイグが両手を大きく広げながら嘲笑する。

「た、勃つわ。まだまだ現役じゃぞ、わしわ。やるかエイヴェリー?」

 じいさんはずいぶん、ムキになって立ち上がって反論していた。余計にちょっと怪しいなと僕なんかでも思ってしまった。

「ま、それは冗談として」

 じいさんはすぐに落ち着いたように、エイヴェリーの側に座り直していた。 

「ちょっと忘れていただけじゃ。乳がでる体にしてやる」

 そう言って、エイヴェリーの服の中に手を入れて直接、胸に触りながらなにやら呪文を唱えていた。

「おお、なんだ。できるのか」

 エイヴェリーは赤ん坊を太ももの上にのせて大人しく座って待っていた。

「そりゃあ、エッチしたからってすぐに乳がでるようになるわけじゃねえしな」

 クレイグは両手を大きく頭の後ろに回して、笑っていた。なんだ冗談だったのかと何故か僕は安心していた。

「いやあ、でも、リーダーであってもあの体なら抱いてみてえよな」

 クレイグは、僕の肩を抱きよせてまるで仲間であるかのように同意を求めてきた。やっぱりあわよくば騙したまま抱いてみたかったんだなと思ってしまう。

「あ、いや、うん。そう。いやいや、違う」

 エイヴェリーの前でどう反応していいか分からずに、挙動不審な目の動きをしながら曖昧な返事しかできなかった。

 普段なら、お前みたいな女ならなんでもいいけだものと一緒にするなと言いたいところだけど、僕の視線はどうしてもエイヴェリーの綺麗な肌に向いてしまう。

(同類だ。今の僕はこいつと確かに同じだ……)

 自己嫌悪しながら、クレイグに肩を抱かれ頭を揺さぶれるままになっていたけれど、エイヴェリーには僕の言葉も耳に届いていないようだった。

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