EP7 June, 2025 ~仇敵~
約一週間以上振りの学園、いや心持ちは過去を考えれば約二十年振りか。
私は重厚な生徒会室の観音扉の前で、朱色の制服の皺、ネクタイの結び方など身嗜みを今一度手鏡で入念に確認して扉の取っ手に触れる。
「会長、ご退院おめでとうございます!!」
生徒会室に足を踏み入れた瞬間、複数のクラッカー音が鳴り響き、十数人の生徒会役員が総出で退院祝いの言葉で私を労ってくれた。
「ええ、ありがとうね、皆。今一度謝罪するわ、辛い想いをさせて、本当にごめんなさい」
「おいおい、お前らしくない平身低頭な言動は止めてくれよ」
「そうですよ~、会長ぅ。入院している間に老けちゃいましたかぁ~?」
「……五月蠅いわね、ナディヤ! またあれやらせるわよ!」
「ひぃぃ~、じょ、冗談ですよ。会長~」
生徒会室内に笑い声が溢れる。
私が想像していたよりも皆が和やかな雰囲気で一安心した。恐らく副会長である春妃の手腕による影響が大きいのだろうと容易に推察できる。
私は生徒会室の最奥に位置する、三面ガラス窓の手前に設置された会長席に腰掛ける。
この特等席からは時計台広場を含めた私立カルミア女学園の全景を見渡すことが出来る。
日付は六月十四日で生徒会役員選挙の全立候補者が開示されて本格的な選挙活動の真っ只中、今の時刻は午前八時ピッタリ。場が落ち着きを見せたところで統括部長の西園寺琴柯がホームルームの時間まで毎朝開かれるミーティングを開始する。
「まず
「ええ、ありがとうね」
「会長がお戻りになられた今、僭越ながら状況を説明したいと思います。現在、私たち臨時生徒会の状況は芳しくありません。先の出来事で批判の矛先が私たちに向いています」
琴柯の説明が十分程度の時間続く。
先の羽乃坂事件での初動対応は問題なかった。事件翌日の月曜日に緊急全校集会を開き公表、被害者の容体も丁寧な説明に務めた。その上で学園警備の更なる強化など安全面の強化策も約束し、特に混乱もなく批判と言う批判の声も聞こえなかったらしい。
ただその状況が一変したのが数日後の六月三日、流出経路や会議の日付が不明ながらも生徒会室の監視カメラ映像が音声付きで昼食時間に学園中のモニターに映し出された。
これが問題な内容で、羽乃坂事件以前からの警備対策の不備と不完全さ、公表内容に含まなかった私が意識不明状態であると言う議題だった。
後者は別に良いとして問題は前者、事細かな事件の流れを知らない生徒からすれば、学園守衛部と言う警備保全を担う隷下組織を持つ生徒会の怠慢が事件を招いたと認識されかねない。
事実としてそう言う認識が広まったからこその窮地な現状だと。
「流出経路は未だ不明です。またレティシア・フルール=シュヴァリエと言う人物の出現です」
(レティね……いい加減にしてほしいわ)
そこに追い打ちの様にレティの出現、彼女は私を目の敵にしている以上、私に勝つと言う一点の感情で生徒会長の座に固執している。
確かに明確な生徒会叩きの材料がある現状であれば、声高らかに批判するだけでも支持を集められるのも頷けてしまう。
「お手元の昨日発刊の学内新聞に独自調査ながらも各立候補者の支持率が掲載されています」
「なるほどね……ここまで深刻な状況と言うことね」
「はい、その通りです。遠苑会長の支持は三番手です」
一位がレティシア・フルール=シュヴァリエ、二位が秋元友紀奈と言う人物。
彼女の名前は前回の時も記載があったけれども、面識が殆どなく詳細を知らない。ただ問題は両名とも花術を学ぶエクセプションサイエンス科――ES科の生徒でないこと。
これの何が大問題かと言えば、学園守衛部がES科の
「それで対応策は考えているのかしら?」
「正直言って厳しいです。私たちの主張を真摯に説明し、信頼して貰う以外には……」
「まあ現実的に厳しいわな」
「どれだけ主張が正しかろうと、信頼を失った人間の言葉に耳を傾ける者は少ないわ」
残された策と言えば敵の弱点を突く以外に残された術はない。
二位との差は数字上で言えば僅差、問題はレティね。彼女の弱みを掴むか弱点を突く、見舞いに来た時に春妃が言っていた『裏で誰かが噛んでいる』と言うその誰かを突き止める。
恐らくレティからして露見すれば立場が危うくなる人物の可能性が高い。
ただそれだけで私に支持が傾く可能性は低いし、秋元友紀奈に一歩及ばずの可能性もある。
私が支持を集めて独走する秘策を考えなければ。
(今、全校生徒が不安に脅えている。それを払拭する方法……なくはない。でもそれは――)
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