EP5 June, 2025 ~貴女は、誰?~
「――行かせないわ。ふぅ、絶対に……ね」
「私の……邪魔を、しないでええええぇぇ!?」
激情する敵、
切創部が酷く痛む……左腕が殆ど動かない。再び敵の単純な水平一閃の斬撃が襲い掛かる。私は脳神経を刺激する激痛に歯を食いしばりながら、その場に膝を落して斬撃を回避する。
斬撃は私の頭上を擦れ擦れで空振りし、無情にも標的を失った刃が虚しく空を切り裂く。
「……つっ!?」
「隙だらけよ!」
駄目元の攻撃が笑える程に直撃、敵の身体は宙に浮かび地面に背中を打ち付ける。
やはり何故か敵は身体能力強化の
敵の視線直上、夜空に無数の花術式が煌々と出現する。私は巻き込まれない様に後退、敵は転倒時に頭を強く打ち付けた為か意識が朦朧としており動作が鈍い。
殺傷性を持たないと言えど相当の打撃力は持つ、さすがに何十発も直撃すれば命の危険性もあるけれども……。
(大丈夫……よね?)
命を奪うのは本望ではない。と言うか死なれては事態が更に悪化して非常に困る。
そして形成された無数の花術式から光弾が発射され――ない? 幻聴なのか? 突如として鼓膜を震わせる程の大鐘の音色が響き渡る。この華丘島に島全体に響き渡る程の巨大な鐘塔は存在しない筈なのに。
音の方向に天を仰ぐと、イノンブラーブル・バレットの無数の花術式の更に上空に視界一面を覆う程の花術式が形成されていた。
その花術式からは雲影の合間を縫って出現する直径数百メートルにも及ぶ巨鐘が左右に揺れて轟音を響かせている。私が発動した花術の花術式は泡沫の如く消え去った。
「冗談でしょ……? 私の
驚愕の声が漏れる私……いや考えるのは後だ。敵は余裕の態度でのそりのそりと立ち上がる。
敵が発動した花術は、使用術者および術者が指定した者以外が発動する第三者の花術を完全に無効化するもの。極一部に効果が適用されない
更に厄介で絶大な効果を持つ理由は、効果範囲内の第三者はこの鐘の音色が鳴り止む数分間の間花術を一切使用できない。まあつまり――丸腰で戦えと言われているも同然と言うこと。
敵の三度の攻撃、突きの構えと同時に光長剣が伸長し、蛇の様に刃が波打ちながら私に襲い掛かる。
(さすがに、まずいわ)
身体能力強化の効果が無効化されていて身体の動作が鈍い。
咄嗟に身体を捻らせると間一髪のところで胸部擦れ擦れで刃を回避する。
でも標的を仕留められなかった刃は軌道修正して再度私に襲い掛かってくる。
「ああっっ!! ぐぅうっっ!?」
剣先が右肩の肉を抉り貫通する。同時に激痛が襲い掛かる。
幸運にも致命傷ではないけれども……だからどうだって言うの? 何れにしてもこのままでは殺される結末である事に変わりない。
敵の武器を封じない限り状況は悪化の一途を辿る……奥の手を使うしかない。意識が遠のく程の苦痛を耐え続ける必要はあるけれども、状況的に致し方ない。
私は切創部に神経を全集中、その周辺の筋肉を収縮させて目一杯に力を込める。
「ああぁあぁあっ!? ぐぅうぅぅ」
「……!? ぬ、抜けない……」
体内に蓄積された花力を逆流させて相手の花術を封じる花術ですらない荒技。
その身体的負荷から全身の神経が悲鳴を叫び激痛が全身へと駆け走る。呻き声を上げ続ける……でもその激痛に耐えたお陰で、敵の光長剣は切っ先から根元まで亀裂が入り次第に崩壊を始める。
敵の攻撃手段を無力化――と言っても満身創痍の私は次の一手が思い浮かばない。何も敵の花術の発動を無効化した訳ではないから。
意識が遠のく……これで退いてくれないと冗談抜きで殺られる。
「次で……了解」
指示役の命令を受けたのか。ひしひしと肌で感じていた強烈な殺意が消える。
ついに力尽きた私は膝から崩れ落ちる……地面に血溜りが形成されて、次第に混濁し薄らぐ意識の中で、私は背を向けて立ち去る敵の姿を捉えながら意識を消失した。
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