尻尾の木屑
思わず聞き返すと、うん。と言って懐から折り畳まれた紙を取り出した。
「えーと。この本を探してる」
「この本……古代文字のものばかりですけど、読めるんですか?」
「うん、読めないよー。だから君を探してた。古代文字に君は詳しいらしいからね」
探すのはいいが取り敢えず目の前の梯子と木屑は危ないからそれを片付けてから探すことにした。この図書館はずいぶん広く、端から端まで歩くのに十分はかかる。さらにそれが上に七段積み重なっているのだから。標識は立っているが古代文学でどれほどあることか。
(長丁場になりそうだなぁ、面倒くさい。嫌だぁ。でも仕事だからやらなきゃなぁ)
「これで全部。はぁ、疲れた」
「だいぶ飛び散ったな。あ、司書さん。尻尾に木屑ついてるよ」
「え……本当だ。最悪」
「手伝ってあげるよ」
彼は片膝をつくと丁寧に尻尾についた木屑を取っていく。
「あの、騎士さん」
「ん? あ、俺はリベルト・クローネだから」
淡々とそう述べると最後の仕上げにポケットから折りたたみ式の櫛を取り出して尻尾を
「クローネさん」
「リベルトでいいよ」
「えぇ」
「なに、嫌なの? 嫌ならいいけど」
リベルトは梳かす手を止めてこちらを見上げる。
「いえ、何も」
そう返すと無言でまた梳かし始める。しばらく無言で自身の尻尾を梳かされ続けるという謎な時間が流れ、リベルトが満足したところでそれは終わった。
「よし、こんなもんだな」
「ありがとうございます」
「どういたしましてー。司書さん、さっき俺に何か言いたそうだったけど。どうしたの?」
「え、あぁ。リベルトさんは騎士なのに古文学なんて読んでどうするのかと」
「あー、王国からの指示だよ」
何気なくリベルト言った。
「王国……え、は? アンタ何者!」
王国からの要件をわざわざ普通の騎士に頼むはずがない。そんなこと頼まれるのは──
「え、知らなかったの? 王国騎士団、団長。リベルト・クローネですが」
棚から猫さん 柳鶴 @05092339
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