棚から猫さん
柳鶴
棚から猫さん
「全く!なんでどいつもこいつも、ちゃんと本を本棚に返さないんだよ」
爽やかな香りが漂い、かさかさと葉が擦れあう音がするこの場所は、ウィンツ国にある国立大図書館・
「借りるならちゃんと元の場所に返せよ! どうして僕が……」
一人、立てかけの梯子に乗りぎしぎしと音を立て更に文句を垂れ流しながら本を二、三冊抱えて棚に戻すという作業を繰り返す。一時間ほどかけて全ての本をしまい終わると、一つ息を吐く。
「ふぅ。やっとしまい終わっ──ぁ」
達成感を得た拍子に立てかけの梯子が突然大きな音を立てて折れる。作業をしていたのは二階で梯子は一階と二階の本棚を直で繋いでいる。つまり、ここで落ちれば一階に叩きつけられることになる。
(うわ、頭からだから着地むり……)
自分は獣人、猫科だが、頭から落下となると流石に上手く着地できそうにない。妙に冷静な思考が頭を一瞬で駆け巡る。割れた木の破片と見慣れた大樹の緑の天井──
「おっと! 大丈夫か?」
叩きつけられ相当な痛みが走ると思ったが、体に伝わったのは微妙な痛みで、聞こえたのは打撃音ではなく、人の声だった。その人物は落ちてくる木の破片を軽々と避けてしまうと、安全な場所まで歩き自分を降ろした。ここで初めて自分は抱き止められていたことを理解した。
「あ、ありがと……ございます」
「どういたしまして」
ゆっくりと顔を上げるとそこには灰色と白色が混じった髪に、青い目。おそらくハスキー種の獣人だろう。腰に剣を佩き、ファーのついた上着を羽織っている。腕章から騎士団だということがわかったが、それにしてはラフな格好ではある。
「あの、何かお探しですか?」
それどころではないのだが、ついいつもの癖で接客の言葉を喋ってしまう。
「そうそう、探し物してたんだ」
彼は自分についた木屑を払いながらこう述べた。
「君を探してた」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます