輝く未来へ

 2608年夏、遂に大日本帝国首都、東京にて念願のオリンピックが開催された。そこに出場した国家は、数年前から独立したばかりの大東亜共栄圏連盟国家を始め、肌の色が様々な色で彩られたことから判る通り、人種差別主義とは縁遠いものであった。白から黒、褐色など、様々な色が映っていた。何せ、この日のためだけにカラーテレビを作り上げたというのだからどれだけ重要な祭典だったのかは、想像するまでもない。

 だが、そんな中、本来ならば居るであろう国家の団体が存在しなかった。別に、大日本帝国が差別的待遇をしたわけではない。旧連合国の代表団は国家復帰されていないことを理由にこの平和の祭典をボイコットしたのだ。だが、それは却って仇となった。何せ、ここまで平和を強調した祭典に出場しないということは、それだけで平和に協力する意思がない、と邪推されても仕方の無いものであった。

 まあなんにせよ……半ば子供じみた願望ではあったが、大日本帝国において遂にオリンピックは開かれた。

 その観客席には、かの名将石原莞爾も存在していた。

「閣下、こんなところにおいででしたか」

「おお、どうだ。お前も一杯」

 こんな日である、飲めない酒を飲んでいるのかと思い相伴に預かろうとした部下が見たのは、アルコールの類いではなかった。

「……閣下、酒ではないのですな」

「ああ、俺は下戸だ。お前も知っているだろう」

「いや、そういう意味では無くでですな……」

 石原は、下戸で有名だった。何せ、宴会で上官の盃を断ったことを始め、豪傑者に似合わぬという意味では意外そうにされることもあるほどであった。たまらず、他の武官が石原に駆け寄った。

「閣下、平和だからとだらけないでください、軍人の仕事はこれからが本番でございますし……」

「まあ、そう言うな。軍人の最高官位を持っている方があそこにいるだろう」

「は?

 ……あ、あれは!」

 そこに、居た人物とは。

「おっと、声は掛けるなよ、折角のお忍びなんだ。気楽にさせるのが臣下の勤めだ」

「……ははっ」


 昭和帝は、家族総出で選手として出場した高松宮宣仁を応援しに来ていた。他にも、対ソ戦で活躍した秩父宮など、様々な宮様将校が平和の祭典であることのアピールとでも言うべき格好で東京オリンピックに選手として参戦していた。無論、昭和帝を囲むのも、選手団を護衛するのも歴任で生え抜きの特務護衛官であった。とはいえ、基本的に帝都は本日も治安が良く、六年前に空襲を受けた形跡ももはや無い以上、彼らもかなりリラックスして任務に臨んでいた。


 そして、東京でのオリンピックに続けとばかりに開かれたのは国際博覧会、いわゆる万博である。テーマとしては、「知恵の勝利」。人類の叡知の結晶とも言える医学薬学をメインに据え、病気に対して臨む行為が祈祷から投薬、けがの治療なども麻酔の出現がいつであったかなど、参加者がメインロードを歩いて行ったら自然と医学の進歩を体感できる展示になるよう工夫されていた。

 そして、そこには……。

「ち、秩父宮将軍!」

「しっ、ここでは一介の客に過ぎん。……私も、結核を病んでいたからね。少し見学しておこうと思っただけだ」

「はあ……、然らば、お並び下され」

「ああ、無論だ」

 ……アメリカ合衆国から手に入れたストレプトマイシンによって結核を完治させた秩父宮雍仁親王も、お忍びで紛れ込んでいた。とはいえ、周囲の一見ただの客に見える人物も、凄腕の達人であり、モギリをやっていた人物は後に「達人が実力を消すことができるってのは、本当だったんだなあ」と語っていたという。

 そして、2608年6月28日、東京オリンピックの閉会式が行われた……。

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