呂宋沖殲滅戦・取懸け

 呂宋沖上空で数分間程度行われただけのそれは、正真正銘の航空撃滅戦であった。今回は、その航空撃滅戦の詳細を見ていきたいと思う。


「さーて、一仕事しますかね」

 そうつぶやいたのは大陸戦線から生き抜いてきた赤松貞明を初めとした古強者ぞろいで率いられた決戦用の航空隊であった。彼達は台南空や高雄空、元山空など、誰がどう考えても「強い! 絶対に強い!」とでもいうべき鬼神の集まりとでも言えようか。その鬼神たちが時間差を置いて戦闘機―爆撃機―雷撃機の順番で来襲する。当然、護衛機や直掩機などは数に含まないで。

 その数、軽く300。先遣隊、すなわち制空権確保のためだけの部隊で300機である。少なくとも、当時の日本としては異例ともいえるほどの数であった。さらに後ろに控えるのは「彗星」隊、「流星」隊、「銀河」隊……。天山ですら旧式扱いされるその航空部隊は、事情を知らない人間が見たら閲兵式かと思うほどの新鋭機「のみ」で構成された一撃必殺の部隊であった。

 当初、日本軍は敢えて呂宋を捨石に、というか囮にした包囲殲滅戦を行う予定であった。だが、堀栄三が発言した「なにも、敵にわざわざ島の地を踏ませるまでもない」という発言によって更に作戦は巧妙になった。堀の解析によると、軍用艦はせいぜい1グロスあるかないか、また軽空母の類もせいぜい2ダース程度であろう、と。もちろん、それは日本の工業力からしたら大軍であったが、合衆国の生産能力にとっては児戯にも等しい。その程度の規模であれば合衆国海軍という巨大組織にとってなら、フィリピンに「防衛用」として差し向けることも可能である。だったら話は早い。本土付近には古強者をはじめとした歴戦の兵がそろっている。彼らならば零戦でもベアキャットを狩ることができるとまで言われている必殺兵器だ。それが最新鋭の戦闘機を駆ったらどうなるか?子供でも分かる理論であった。

 堀は渾名の通り、現地指揮官であるマッカーサーの作戦の癖をほぼ初見で見抜いた。一種の勘働きに近いものがあったが、それゆえにその作戦の見切りは非常に的確であった。

 かくして最初の攻撃(堀自身もこれで決めるつもりはなかったが)である制空隊300、護衛機500、爆撃機400、雷撃機600、特殊部隊200の員数2000機を数える大空襲部隊が組織された。

 一方の合衆国軍は最初迎撃機が上がってきたのを見て「何も感じなかった」という。一説には零戦しか知らぬ見張員が味方の航空機であると誤認したぐらいだ。

 かくして、「呂宋沖殲滅戦」と称される航空殲滅戦が行われた。


「ば、バカな! 新型機か!」

 それは、おおよそ信じられないほどの速度で合衆国軍航空隊を翻弄していた。相対速度にして、およそ300ノット。300km/hではなく300ノットである。本来「我に追いつくグラマン無し」で有名な偵察機、彩雲に搭載するはずの新型エンジンはこの昇風に搭載されていた。そして、我々の世界に於いて戦史をよく知る者はその機体の形を見てこう言うに違いない、「これは「震電」じゃないか!」と。

「ダメです、背後にっ、ぐわっ!」

「ちっ、撤退だ、撤退しろ!」

「ダメです、逃げられません! 速度が、うわあっ!」

 次々と合衆国軍機が爆散する一方で日本軍機はただの一機も撃墜されることがなく、更に言えばどんな実包を使っているのか防弾装備が張り巡らされているはずの合衆国軍機の燃料タンク内部で次々と弾薬が破裂、当然の如くパイロットは生きているわけがなく、数少ない合衆国軍側のエース・パイロットは悉く空の微塵として散った。それはイェーガーとて例外とは言えなかった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る