第二次マリアナ沖海戦(後ノ弐)
合衆国マリアナ侵攻部隊「本陣」こと合衆国海軍太平洋艦隊第七任務部隊は当初、味方からの救難信号を日本軍の偽報ではないかと疑ったという。無理もあるまい、夜半に行われたこの一作戦行動だけで侵攻艦隊の航空兵力が海の藻屑となったことを信じられないこともあったが、それ以前にそもそもそれは平文で送られてきたからだ。だが、その一報は間違いなく本物の救難信号であった……。
一方で、連合艦隊もまた空襲の危険性を考えた慎重案が出始めていた。まだ夜明けには時間があったものの、万一この火災現場の光を利用した夜間空襲が行われた場合艦隊が混乱するのは火を見るよりも明らかであったからだ。
だが、高松宮が切った舵は、更なる進軍であった。大胆不敵なその航路は、然して敵の「本陣」を捉えることに成功する……。
「本陣」こと第七任務部隊がひと悶着の後に現地へ急行したときに見た光景は、次の悲鳴が象徴的なものであった。
「なんてこった、海は20%しかないぞ! あとは全部敵だ!!」
そう、その瞬間とは、連合艦隊がすべてを食い散らかして次の獲物のために隊列を整えて前進する瞬間であった。……そして、第七任務部隊が揃えていた戦艦群の旗艦にそびえる艦橋の司令部は一瞬、ただの一瞬だが怯んだ。
その隙を逃すほど日本の戦艦部隊――すなわち世界最高の装備を持ち世界最強の錬度を積んだ化け物の集団――はお人よしでもまぬけでもなかった。……そして、その二、三秒程度怯んだことによる判断の遅れは、完全に第七任務部隊を黄泉の国へと追い込んだ。
「しめた、敵さんは怯んでいる。撃て! 命中せんでも構わん、一斉に撃ちまくれぇぇっ!!」
「射撃用意、命中精度無視、適時一斉射撃用意!」
合衆国軍の艦艇は、非常にダメコンを重視した設計をしており、更に言えばそれによる訓練工程を考慮した場合、浮上維持能力、つまりは海の上に生存している能力は非常に高い海軍であった。それはいわば、ベテランの生き残る率を上げて生還しやすくなる、士気を高く保てる海軍であった。だが、ダメコンなど巨砲における一撃に対しては何の役にも立たなかった。少なくとも、46サンチの砲撃をとどめるからくりなど、この地球上に浮かぶ艦艇の中で、大和と武蔵、そして信濃以外には、存在するはずのないものであった。
かくして、合衆国海軍太平洋部隊が現状所持している主力艦艇のすべてである戦艦八隻、空母七隻を主体としたマリアナ侵攻部隊は一夜にして海底にきらめく鉄くずに変わった。
対しての日本軍の被害は、せいぜいが駆逐艦が3隻ほど損傷の蓄積により中破判定を受け、巡洋艦も1隻か2隻小破しただけだった。
航空隊の生かせぬ時間帯といえど、あまりに一方的な差であった。
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