第二次マリアナ沖海戦(後ノ壱)

 ……敵艦見ゆ!

 そう叫んだのは誰だっただろうか。気がついたら連合艦隊は敵軍と接触していた、しかも絶好の位置……丁字である。

 この機を逃してはならない。司令官は叫んだ、「敵艦をすべて、生かして帰すな」と。


 まず一番槍の誉れを掲げたのは浦風であった。次に襲いかかるは酒匂、そして響が、雷が、電が、五月雨が、時雨が、次々と襲いかかった。

 それはまさに鬼を退治すべく研ぎ澄まされた日本刀による一撃必殺の撃剣であった。

 ただでさえ数を減らしていた合衆国軍侵攻艦隊の航空母艦護衛部隊はその攻撃を母艦に被弾させまいとして……結果その全てが轟沈した。しかし、それは一度目の攻撃でしか、無かった。

 次に合衆国軍侵攻艦隊に降り注いだ攻撃は、本来なら戦艦を滅ぼすための砲雷撃戦であった夜間専用の切り込み部隊であった。その旗艦は川内、見る人が見れば一瞬でどの水雷戦隊か判るであろう彼女達の突撃が最初に捉えた敵は空母エンタープライズであった。

 エンタープライズの最期は悲惨とすらいい表わせぬ恐るべき状態であった。まず、彼女の土手っ腹に打ち込まれたのは軍艦大和の曳光弾付きの徹甲弾であった。第一斉発の砲弾のうち、戦場を照らすべく大凡の距離と角度のみで指定しただけの曳光弾を含めた徹甲弾の七発までが同時にエンタープライズの土手っ腹で炸裂した! それだけでこのヨークタウン型航空母艦にとっては致命的といえる一撃であった。それだけではなく、ほぼ同時刻に着弾した水雷が丸裸になった火薬庫に触れたことによりとんでもない代物……一種の前衛芸術と化して爆発四散した。

 次に狙われたのはエセックス型空母の「群れ」であった。旗艦にして歴戦の空母であるエンタープライズの死は彼女等の士気に大きく影響した。だが、士気なんてものが関係ない程の攻撃が襲いかかるのに、そう秒針が掛かる事はあり得なかった。昼間航空戦に於いて受けた被害を修復する暇もなく、彼女等に襲いかかった攻撃は戦艦だけで大和、武蔵、長門、金剛、榛名、扶桑、山城、伊勢、日向の九隻に上った。戦艦だけで九隻分の攻撃を受けたエセックス型空母は四隻ともまとめてあの世への旅路に就いた。

 それは言うなれば、「狂乱」であった。水雷戦隊は片端から一山いくらで存在する辺り一帯の敵艦隊をたたき壊していき、その沈み行く敵艦隊の揺らめく炎を目印に悠々と戦艦御一行様が空母を潰していく。その光景を見た者は、容易く航空主兵という手段が崩れ行く様を見ることが出来ただろう。

 そして、侵攻艦隊の本隊の内、前衛部隊が駆けつけた頃には空母部隊のほぼ全てが轟沈した有様を見てしまい、彼らは発狂寸前であったが、かろうじて前衛部隊の任務である「現状の報告」を行えるだけの理性は確保していた。そして、あろうことか平文で打った打電の内容は、「空母部隊が敵の主力部隊に食われた」であった。だが、その打電を打ち込む位であれば、彼らは何もせずに遁走した方がまだ良かったのかも知れない。なぜならば、彼らの命運が日本軍の攻撃によって消え去っただけではない、応援を頼んだ侵攻艦隊の本陣とでも言うべき新型艦艇がそれを受信したことによって、その「本陣」を危険な場所に呼び込むことになったのだから……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る