第二次マリアナ沖海戦(中)

「くっ、連中はどこへ行方をくらました!」

「提督、また一隻やられました!」

 彼が受け持っていた任務部隊は次々にその数を減らしていった。しかも、ただ等分に減ったのではない、空母の護衛や潜水艦の駆逐を担当する小型艦が集中的に狙われており一つ一つの被害は小さくともそれがうずたかく積み重なれば何が起こるかは明らかであった。


「ふっふっふ、わかるまい……、今まで物量に頼った戦しかしてこなかった彼奴等きゃつらにはわかるまいて……」

「醍醐よ、立案した私が言うのもなんだが……。凄まじいな」

 戦艦の昼戦艦橋にいて、高松宮長官と共に仁王立ちになって高笑いをする人間がいた。名を醍醐忠重という。先祖が臣籍降下したとはいえ戦国時代を生きた天皇の雲孫九世子であり、また同時に彼は優秀な潜水艦の指揮官であった。

 無論、後に潜水艦科教官となる木梨を初めとした卓越した技量を持つ潜水艦の艦長があってこその指揮であったが、醍醐は戦艦勤めが花形という固定概念が海軍将校の大多数を占める中で敢えて潜水艦という道を選んだだけあって、潜水艦という兵器がどういう役割を担うかを、通商破壊戦を表芸とするドイツ第三帝国やそれを阻止する専門部隊を所有しているイギリスの海軍将校が備えているであろう平均水準よりは熟達していた。

 その醍醐に対して高松宮が提案した戦術が、一見死ねと命じていると思われる敵駆逐艦の撃沈である。だが、その提案した戦術は一風変わったものであった……。

「なんの、長官が提案した戦術あってこその戦果でございますよ」

「……太古から存在するキル・ゾーン戦術を応用しただけだ、たいした指示は出しとらんよ」

「しかし、魚雷を交差するように、面をめがけて撃て、というのは酸素魚雷でないとできない戦術ですな」

 醍醐が発言したとおり、高松宮が提案した戦術とは、潜水艦を伏兵として規定の場所・深度を指定しておき、合図と共に所定海域に敵がいようがいまいが魚雷を一斉に発射する、というものであった。それだけであればただの待ち伏せ戦法に過ぎないが、その魚雷の射線を交差するように発射させることによって面性射撃効果を期待させるものであった。

「ああ、その辺りは先達に感謝しよう。……さて、敵も夜戦は読んでいるだろうが、かき集められるだけの戦力は集めて置いた。あとは現地組の腕を信じるだけだな」

「ははっ」


 ……そして、一時間も経過する頃には合衆国海軍の護衛艦艇はズタズタに引き裂かれ、あろうことか主力艦艇である航空母艦にも被害艦が出ている有様であった。

「味方潜水艦より発信がありました。信号は「フジノヒノデ」、恐らく近隣の敵護衛艦艇をあらかた撃沈した模様です!!」

「よっしゃあ、行くぞ!!」


「提督、もう浮かんでいる味方の駆逐艦がありません! 防空巡洋艦も……」

「ええい、俺たちにはVT信管もあるし航空機だってある、まだ負けたわけじゃない!! 第一、連中の練度がそこまで高いとは思えん!」

「しかしっ……!!」

「そんなことより航空部隊の発艦準備は出来ているだろうな!?」

「ははっ、航空隊はいつでも発艦できます!!」

 だが、彼らが航空隊を発艦させようとしたその時である!

「ちぃぃっ、こんな時に……!!」


「しめた! 彼奴等まだ航空隊を母艦に載せて居るぞ!」

「隊長、ミッドウェーの意趣返しです! やっちまいましょう!」

「応ともさ!」

 なんと、合衆国海軍の現地任務部隊が航空隊を発艦させる土壇場で運良く大日本帝国側の航空隊が到着、ダメコンのレベルの違いから撃沈には至らなかったもののエセックス型空母をなんと三隻まで撃破し悠々と帰還した!!


「はっはっは、巡洋艦も駆逐艦もおらんでは弾幕も張り辛かろう。おまけにVT信管だったか? そのメカニズムは先の戦で丸ごと戴いた!!

 ……航空隊には例の説明書は配ってあるな?」

「ははっ、全員に怠りなく」

 例の説明書。それは高松宮が敵の高角砲を調べてみて驚愕した「近接信管」を徹底解析した安全圏から投弾する手法である。

「前のマリアナ沖海戦では航空隊員の鬱憤が相当溜まっていたらしいからな、今頃は敵航空隊を撃退していることだろう……。

 戦艦を近づけろ、小沢ができなかったアウトレンジ戦法を実現する!!」

 斯くして、第二次マリアナ沖海戦の後半戦、日本軍名称は「内南洋海戦」、合衆国軍名称は「マリアナ沖の惨劇」が始まった……。

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