「は」号作戦(後)

「なんてこった、空から敵が降ってくる!」

 昭和十九年七月四日、ポートモレスビー上空にて訓練中の新兵は、当初味方の飛行機だと思っていた大型機が何かを投下していたことを発見し、それでも当初何らかの訓練か、あるいはただの空輸だと思っていたという。だが、その「空輸物資」が突如として爆弾を投下し始めたところから事態は一変する……。


 同時刻、ラバウル基地司令室にて。

「どうやら、巧くいったようですな」

「阿呆、巧くいくのは当たり前だ。そんなことより、航空兵が疲弊していたり空挺部隊が万一全滅の危難に遭ったら直ちに呼ぶようにな」

「ははっ」

 高松宮長官は、「は」号作戦を開始した。その、作戦内容とは……。

「まずポート・モレスビーをできるだけ引っ掻き回す。その隙に戦艦でソロモンの島という島を叩く。付近に軽空母を浮遊飛行場代わりに回遊。

 いくら零戦の脚が長いといっても何時間も飛んでては疲れるだろう。三時間ごとに休憩を取り、不審な海域は東海で哨戒。

 そして最後に正規上陸部隊を乗せた輸送船団でポート・モレスビーにとどめの一撃。あそこが取れればガダルカナルもエスピリツサントも大丈夫だ、フィジーは遠すぎる。そして……」

「そして?」

「旧式暗号文で米軍をひきつけ、誰もいないところに急襲。そして気づいた頃にはアルミを巻いて退陣。当初の手筈通りにな」

「ははっ」

 ……「は」号作戦の発動によってポート・モレスビーは潰乱した。まさか艦艇すら派遣せずに空挺部隊のみで後方基地を占領する気だとは思わなかったからだ。しかも高度が高く高射砲では当たらない。さらに間の悪いことに、ガダルカナル島から日本軍が撤退したこともあってちょうどこの時期のポート・モレスビーは新兵訓練のために後方認定されていた基地であるがゆえにベテランのパイロットが少なく、その少ないベテランパイロットをガダルカナル島に派遣していたものだから先導役の機体すら新兵が操っていることもあって面白いように合衆国軍機は墜落していった。


               「まずは善し。」


 そして、作戦は第二段階に突入した。先程高松宮が発言したとおり、ポート・モレスビーの航空隊の一時的喪失を機に、高松宮提督自ら乗り込む打撃部隊にてソロモン諸島を夜襲にて猛撃。ガダルカナル島を初めとしたソロモン諸島は文字通り更地となった。見敵必殺の精神の下島という島に砲弾を叩き込んだ結果だ。勿論、付近に敵軍航空部隊が存在せず、尚且つ味方にある程度の直掩戦闘機隊があるという合理的判断なものだが、それにしても大胆不敵というほかなかった。

 そして、「は」号作戦本命の第三段階である、大規模同時上陸。まともな抵抗能力の残っていなかったポート・モレスビーはその上陸を阻む術が存在せず、尚且つ砲弾神経症を起こした連合軍将兵であふれ、参加した下士官の一人に至っては「連合軍将兵ガ我々ニ攻撃スル手段ハ、銃弾デハナク小便デアッタ(意訳:なんでぇありゃあ。連中、銃弾じゃなくて小便もらしてらぁ)」とまであっけにとられた、殆ど「無血開城」に等しかった。

 ……かくして「は」号作戦は大成功に終わった。作戦が成功しただけではない。連合軍は南太平洋における作戦能力を向こう半年以上は喪失した。すなわち事実上、如何に島々を連合軍が占拠していたとしてもソロモン沖は帝国軍のもとに復帰したと言っても差し支えなかった。

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