マレー・オセアニア逆撃作戦
「は」号作戦(前)
高松宮は、マリアナ沖の防衛に成功した。それどころか、攻め寄せた合衆国軍を殲滅にまで追い込んだ。将兵は当然のように狂喜乱舞したが、高松宮はそうでもなかった。慢心を恐れたからか、それとも予想外の状況に喜ぶより先に戸惑っていたのか。……彼の胸中を探ってみよう。
勝ちすぎた!!
拙いぞ、このままじゃ将兵が慢心する! ……それよりも重要なのが、連合軍はますます物量を前面に押し出してくるだろう。
……勝てるのか、あんな無限の物量を誇る大国に!?
「殿下?」
「いかがなさいましたか?」
従卒副官の類いが心ここにあらずといった状態の高松宮に群がり始める。彼らからすればはしゃぎたい気持ちすらあった中でも、肝心の高松宮がそういった状態であったことから、徐々に当惑し始めていた。
「だから殿下はよせ。
……何、インド洋の事を考えていただけだ」
周囲の当惑をようやく感じ取ったのか、あるいはインパール作戦の詳報を聞いた後だったからか、そのように答えた高松宮。そしてその表情は口調同様、あまり明るいとは言い難かった。
「捷報に水を差すようだが、向こうはかなり苦戦していると聞いている。次の目的地はニューギニアだが、インドを解放したらイギリスはかなり苦境に立たされるはずだ、第一……」
さらに、顔を昏くして言葉をためる高松宮。あまり言いたくは無いのだろうな、とは周囲も思ったが、玉音を記録するためにも促すことにした。
「第一?」
「第一、今回の捷報についても我々にとっては大勝利なのだろうが、合衆国の生産力を考えた場合、連中にとっては向こうずねを打っただけに過ぎんと思っておけ」
「は……」
『ははっ!!』
そして、周囲の従卒副官が散ったことを確認した高松宮は、ひとり呟いた。
「……さて、ごまかしたはいいが、果たして南方作戦の停止は成るかね?」
先程高松宮自身が述べたように、次なる目的地はニューギニアであった……。
一方、そのニューギニア方面に於いては……。
「気張れ貴様等!なんとしても援軍が来るまでは耐え抜くぞ!」
隊長格と思しき将校が部下を必死に励ましていた。援軍の充てはないが、援軍があると信じさせることは一つの戦術であった。それに、彼にはある目算があった。マリアナ沖に於いて、味方の海軍部隊が展開していることを、彼はどこからか聞きつけていた。つまりは、自分たちはまだ見捨てられては居ない。その蜘蛛の糸のようなか細い根拠が、彼を支えていた。だが。
「連隊長、味方より通信を受け取りました。「まりあな沖防衛ニ成功、コレヨリ我等後方ヲ衝キ貴殿等ノ支援ヲ行ウ」……どうやら、海軍はマリアナ沖の防衛に成功したようです」
……「蜘蛛の糸」は突如としてしめ縄のように太く、そして固くなった。どこからの通信かは扨措いて、援軍が来ると正式に決まった、否、正確には援軍が来るのではなく、味方の艦隊は敵の後方拠点を叩くことによって間接的に支援を行おうとしていたのだが、それは彼の矜持を深く満足させるものであった。
「おう、そいつぁ有難ぇ! おい貴様等! どうやら海軍は殿下自ら敵の後方拠点を急襲して敵を潰乱させるおつもりだ!なんとしても敵の注意を此方に引きつけるぞ!」
『応っ!!』
……ニューギニア方面に於いて、日本軍はウエワクすら奪取され既に残すはビアクのみとなっていたが、高松宮が連合艦隊司令長官になったことは彼らの士気を厭が応にも高めていた。何せ、彼らにとっては天皇陛下の弟という立場は雲の上の存在に等しい。その人物が、彼らの扶けを必要としている。それが彼らの士気を底上げしていた。無論、士気だけで戦えるほど近代戦は甘くはない。だが、士気は得てして超常現象を引き起こすこともある。ビアクにて籠もる日本軍部隊は、ポートモレスビーに日章旗が昇るまでの時間を美事稼ぐことに成功する……。
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