マリアナ沖の奇蹟(後)
それでは、連合軍が見た「マリアナ沖の悪夢」の続きを話すことにしよう。
当初、サイパンに上陸した米軍は第51任務部隊がいないのを知り、眼下で行われていた上陸作戦は一見好調に進んでいたように見えたこともあって恐らく付近の日本艦隊は壊滅したのだろうと楽観していた。だが、それが偽りであることを彼らは命を対価として思い知ることとなる。
高松宮は、サイパンに上陸した敵兵に対して戦艦による圧倒的火力ではなく、敢えての航空部隊による爆撃で攻撃を行うことを下令、空母以外に収納していたあまり多くない爆撃機、攻撃機を空母に輸送し対地攻撃を開始した。
更には戦艦ではなく巡洋艦に対地攻撃を指示。一見、なぜ戦艦を使わないのか疑問に思う方もいらっしゃるだろうが、これも高松宮の策の内であった。無論、砲身命数のこともあるのだが、彼が対地攻撃を敢えて巡洋艦で行った理由、それは。
「生憎だが、生かして帰す訳にはいかないのでね」
「提督、本当に戦艦は使わなくて宜しいのですな?」
再確認を取る幕僚達。なぜ態々持ってきた戦艦を使わないのか、説明されても尚疑問に思う者も居たようだ。主に、その理由は三つ存在した。一つは、先程も述べた砲身命数のこと。残りの二つは……・。
「ああ。万一味方の要塞に当たっても巡洋艦の艦砲ならば貫通力も少ないだろう。それに……」
「……陸上部隊への海上攻撃を過小評価できる、ですか」
「おう」
かくて、昼間砲撃を背景として、後に合衆国軍の証言をして「空を覆わんばかり」の空襲部隊は発進した。その時の連合軍将校の発言が今も尚録音されている。
「なんだありゃ!! 空は40パーセントしかない、他はみんなミートボールだ!」
とはいえ、元々空母に搭載していた機体が防空戦闘機しか存在しなかった上に、他の軍艦や輸送船に分解して搭載していた雷爆撃を行う攻撃機もそれほど多くはなく、そして高松宮はこの戦場を始め、度々急降下爆撃を禁じることが多かった。曰く、「折角適正練度まで育った搭乗員を可惜散らす訳にはいかん」であった。即ち総じて水平爆撃のみとなったが、艦艇への攻撃と違い陸上への攻撃は小型爆弾が主であり、態々危険な急降下爆撃など行わずとも、物量さえ整っていればきちんと掃討できたのだ。
かくて、連日連夜の爆撃に耐えかねた合衆国軍は撤退を決意、付近の艦隊に打電を行うも、一向に返事が返ってこない。ここにきて上陸した合衆国軍は血相を変えた。退路を断たれたのだし、血相を変えるのは当たり前ではあったが、それは彼らが今まで行ってきた日本人に対する残酷な虐殺方法を真似ただけであり、因果応報とでも言うべき状態でしかなかった。
そして、サイパンに上陸した合衆国軍は殲滅された。全滅ですらない、殲滅である。そして、残された瓦礫には、大日本帝国にとって石油と同じくらい貴重な重機や新型電探など、数々の装備が転がっていた。無論、それを逃すほど高松宮は愚物ではないことは、読者の皆様もご理解戴けるだろう。
斯くて、驕慢なる合衆国軍の攻勢攻撃は早くも頓挫した。これはトラックやパラオを攻撃された報復であり、確定情報を得るために仕掛けた罠だった。そう、親王は直感を確定情報に変えるために態々直率という形をとって大和に座上したのだ。後に合衆国軍が太平洋を追い出されるまで続く、この戦法は航空主兵の定石からは外れたものであったが、故に多大なる効力を発揮した。
そして、高松宮宣仁親王は第二段階へと戦略を移し始めた……。
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