彼らは来た(中)

「第三次攻撃部隊、未だ連絡が途絶えたままです……」

「なんたることだ」

 こちらはマリアナ侵略軍、空母エンタープライズ艦橋。現在その飛行甲板には第四次攻撃部隊が並んでいたのだが、さしもの彼らも第三次攻撃部隊までもが通信途絶の儘帰ってこないことを訝し始めていた。流石に全機が撃墜されたとまでは思っていなかったようだが、味方基地に着陸したにしてもその旨を送ってこなければおかしい。彼らもだんだん不安になってきた。

「司令官、如何致しましょう。このまま第四次攻撃部隊を発艦させるのは危ないのでは?」

「バカを言うな、いくら何でも敵艦隊の情報すらまだつかめていないんだ、このまま尻尾巻いて逃げるのは流石に拙い」

「しかし……」

「……言いたいことは判っている、しかしいくらなんでも戦果くらいは挙がっているはずだ。第四次攻撃部隊発艦始め!」

「……ははっ」

 斯くて、まだ太陽も傾かない午後の頃、合衆国任務部隊は第四次攻撃部隊を発艦させた。


「殿下、第四次攻撃部隊を観測致しました。連中、余程死にたい模様ですな」

 軍艦大和に登場している電探専門員が敵軍のお代わりを告げた。さしもの「殿下」も若干現状に呆れたのか、次のように述べたという。

「だから、殿下はよせって。……確かに、そいつは妙だな。連中のことだから兵員惜しさに下がるとも思ったが」

「確認しただけで敵空母は大型のものが九隻以上は存在致します、まだまだ余裕なのでしょう」

「……やむを得まい、攻撃部隊も防空戦闘に回すぞ。専門の訓練は積んでないとはいえ基本は出来ているだろう」

 そして、「殿下」は戦闘機要員だけではなく攻撃機要員も戦闘機に乗せて迎撃するように命じた。そう、機体は残っていても決して無限ではない精神力を以て敵軍に当たっていたエースパイロット達も疲労の色が見え始めた頃であろうからだ。また、攻撃部隊要員も決して戦闘機を操れない訳ではなかった。それに、このまま護衛部隊要員のみに手柄を稼がせるのは士気の関係上、宜しいとは言えなかった。かくて、攻撃部隊要員は護衛部隊要員が使った後の後期零戦を駆り対空迎撃に乗り出すこととなった。

「……ははっ」


「何が起こった」

 合衆国任務部隊は若干の動揺が走っていた。何せ彼らが放った攻撃部隊はかれこれ第六陣まで放っていた。にも関わらず一向に戦果報告はおろか被害報告すら聞こえてこないのだ、更に不安要素を加速度的に強くしたのが今まで放った機体が一機たりとも母艦に帰ってこないのである。故に、彼らは当初第七次攻撃部隊を放とうとしていたが、流石に思案し始めていた。

「先任、現状をどう思う」

「正直、情報が無いため不確定なことしか言えませんな。とはいえ、第七次攻撃部隊の出撃は控えた方がいいと思います」

 先任と呼ばれた薄い色素の男が答える。第七次攻撃部隊は既に甲板に控えていたが、彼の見解を考慮した場合、部隊を転用するかさっさとしまい込んだ方が善処といえた。

「なぜだ」

「不確定要素が多すぎるからです。下手に犠牲を増やす必要は無いかと」

「……そうか。ならば、偵察に留めておこう」

「まあ、それくらいならば」

「第七攻撃部隊、攻撃中止。機体を転用して周囲の偵察に充てるぞ!」

「ははっ!!」

 かくて、合衆国任務部隊は連合艦隊への攻撃を停止した。だが、そこに至るまでの犠牲はあまりにも大きかった……。

 そして、その夜のことである。

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