第4話


 過去に戻ってきて、約1ヶ月が経つ。


 カレンダーは5月で、もうすぐ夏だ。


 自分が今高校生だということを考えると、どこか奇妙な気分になる。


 まあ正直、こういう経験をするのは初めてじゃないから、だんだんと慣れてきてるけど。


 時々、考えてしまうんだ。


 今が“いつ”か。


 カレンダーを見れば、その答えはすぐにわかってしまう。


 だけどそれがどれだけ奇妙で、ばかげてるか、…つい、冷静な感情のそばで、意味もなく反芻してしまう。


 だって私は、本来ここにいるべきじゃないんだ。


 もう何度も経験した。


 過去に戻って、いるはずのない時間にいて。


 どれくらいの距離をジャンプしたのかわからない。


 全部“置いてきていた”はずだった。


 世界に。


 雨が降る前の空に。



 

 玄関を開けて、学校に向かう。


 通い慣れた道の景色。


 川べりの斜面に続いていく、どこまでも透き通った日差し。


 

 感じるんだ。


 耳を澄ませれば、すぐ近くに。


 足を動かした先に見える街の風景が、「今日」に追いつこうとしていること。


 自分がどこにいるのかなんてもうわからない。


 そんな予感が頭のすぐ傍をよぎるのに、まだ、はっきりしない雲の形が、空の中心に近づこうとしていて。

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