第12話 美しい声を持つ鳥達
やつれた様子の竜を見て、カナリーはちょっとでも暗い気持ちを軽くしてあげたいと思った。
「あの、竜さん!気分が落ち込んでる時は、日光浴びて、深呼吸して……鳥のさえずりとか聞いたら少しはよくなると~……」
カナリーはそう言って、洞窟の外を見た。
延び放題の雑草。
わさわさの木々が影を落としている。
そういえば、カナリー達は森を歩いている間、動物らしい動物を見かけなかった。
静まりかえった森が目の前に広がっている。
森を見た竜はまたブワッと涙を流した。
「うぅっ……!私がパニックになってしまったせいで!私の魔力が暴走して、花は枯らし、動物達を怯えさせて……シャナが美しいと言ってくれた森をめちゃくちゃにしてしまったんだあぁ!!」
ノワールが言った通り、森の様子が変わったのは、竜の魔力の暴走が原因だった。
それはさておき……カナリーは頭を抱えた。
竜を励まそうと思ったのに、泣かせてしまった!
カナリーは悩んだ末……
「竜さん……!見てください!」
カナリーが呪文を唱え、魔方陣から姿を現したのは黄色のカナリアが数羽。
カナリア達は美しい鳴き声でさえずる。
竜の滝のように流していた涙が少しおさまる。
「あぁ……シャナが動物達に囲まれて歌っている姿を思い出すねぇ……。いや、黄色のカナリア自体がシャナに見えてくる……」
「実は……野生のカナリアはお腹が緑色、背中には茶色のしま模様が入っているんです。ペットとして見る、黄色とか白色のカナリアは品種改良して生まれたんです」
カナリーはそう説明しながら、さらにもう1羽、カナリアとは別の鳥を召喚した。
体全体が黒色、お腹は白地に黒い斑点がある鳥……
「これは、クロツグミ?」
竜がそう言えば、カナリーは頷いた。
「はい!繁殖期の初夏になると、透明感のあるさえずりをします」
「あぁ、そうだね。シャナも私もクロツグミの声が聞こえると夏が来たと感じるね……」
「繁殖期以外ではあまり鳴かないんですか?」
ノワールがそう質問すると、カナリーが答える。
「繁殖期はメスにアピールして子孫を残す必要がありますが、繁殖期以外の時期に鳴いてたら敵に見つかりやすくなりますからね。繁殖期以外は生存することが大事ですから」
さらに竜が付け足す。
「繁殖期以外であまり鳴かない、口を閉ざす、口を噤む……だから『ツグミ』の名前がついたんだ」
ノワールは「へぇ……なるほど」と関心していた。
「あの、竜さん。この鳥達、12時間ぐらいいるので……しばらくはカナリアとクロツグミのさえずりで癒されればと……私にはこれぐらいしか出来なくって」
カナリーがしどろもどろにそう言うと、竜は優しい笑みを見せた。
「ありがとう。みっともなく泣いては慌てて、冷静さを失ってた私を気遣い、励まそうとしてくれて……君のおかげで私はだいぶ落ち着いたよ」
竜がそう言ってくれてカナリーはホッとした。
「君はシャナによく似ているよ。同じ金髪の乙女というのもあるが……その優しい心がよく似ている」
あれから一週間後、シャナさんと連絡がつき、無事に2人は仲直りできたとのこと。
相談所に2人からの感謝の手紙と、元通りなった森で咲いた花の押し花が添えられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます