第14話 ディナー&バー
夕食は、ホテルのレストランでフレンチのフルコースだった。ワインで乾杯をして、歌劇のことや子どもたちの事、芽衣子が進の奥さんのことを気遣う話などをしながら前菜、スープ、メインディッシュまで「どれもとても美味しね」とお互い言いながら食べた。ワインはふたり共2杯目だったが、芽衣子の頬は、ほんのりピンク色になっていて、また二児の母親であることを忘れさせた。
「上にバーがあるんですが、イルミネーション観ながらカクテル飲みませんか」
「あら、多摩野さん、私を酔わせてどうするんですか? リアスト通りですか?」
「バーは入れてました。酔わせてなんかしようなんて書いてません。イルミネーションを観れたら綺麗だろうなと」
進は確かにそれ以上のことは書いていなかった。
「そうですね、なんだか既に酔ってるけど今夜は多摩野さんに付き合います。行きましょう」
――やっとリアスト通りに進みそうだ。
進は、ハウステンボスに着いてからの違和感からやっとひとまず開放された。
最上階のバーに入り、今日、3度目の芽衣子の「わー」だった。暗めのバーの窓からハウステンボス、光の王国のイルミネーションの光が窓という窓からバーの中に不規則にまるで外から射し込むミラボールの光のようだったのである。
進たちは、普段からカクテルという柄でもないので、バーテンダーお勧めのカクテルをそれぞれ作ってもらいもう一度、今日の日とトトビッグ当選の6億円に乾杯をした。リアルストーリーの流れに乗ってほっとしたのか進はいつもり早いペースでカクテルを飲み干すと2杯目に入った。普段は、飲み過ぎることも酔っ払うこともないのに完全に雰囲気にのまれてしまった。少し手元がおぼつかなくなってる。
――あれれ、こんなはずでは。
「多摩野さん大丈夫ですか、今日は、こんな豪華なところに誘ってくださってありがとうございます。ゆうやとしゅうとのことも相談にのって頂いてありがとうございます。なんだか心強くなりました。いざとなったら多摩野さんがいますもんね」
――『いざとなったら』あれ、なんかズレてるなあ。確かここら辺りでは家を建てて一緒に暮らしましょうみたいな話になってるはずでは? やっぱり酔っ払ってしまったかなぁ。
「はいそうですね。いざとなったらぼくがいますよ」
進は、心では違うと思いながらもそう答えてしまった。
「ですよね、大丈夫ですよね。多摩野さん、私ひとりでも」
「えっ」
――『私ひとりでも』ああ、酔っ払ってる。
「安心しました。今夜は、飲みましょう。多摩野さん、さっきからお酒、減ってないですよ」
――いや、さっき2杯目に入ったばっかりで。2杯目なのにこんなに酔って。ディナーのワインが効いているのか? そう言えば、ぼくお酒強くなかった。
「何、さっきからむにゃむにゃ言っているんですか、多摩野さん」
芽衣子も2杯目に入っていたがいっこうに酔った様子はなく、頬もほんのりピンク色のままだった。
「芽衣子さん綺麗ですね。ぼくと一緒に暮らしませんか」
進は、『むにゃむにゃ』と言われて、とっさにリアストに書いた台詞を脈略もなくそのまま言ってしまった。
「やだ、多摩野さん、やっぱり酔っ払ってますね。多摩野さんには綺麗な奥さんがいるじゃないですか。私なんかと一緒になっちゃだめですよ。奥さんが悲しみますよ」
「だから嫁さんには3億5000万円渡して」
「そんな、お金だけじゃないですよ。お金で悩んでる私の言う台詞じゃないですけどね」
「そうですかね、奥さんは、お金だけくれと言いそうですけどね。その方がゆうやくん、しゅうとくんも助かるし、芽衣子さんも助かるでしょ。あとは、芽衣子さんがぼくと暮らせるかどうかだけじゃないですか」
「いやいや、絶対違いますよ。奥さんは別れないと言うと思いますよ。6億円、全部渡しても。それにもう一つ、大事な事があります。子どもたちが多摩野さんと暮らせるかです。私は、まあまあ大丈夫ですけど、嫌だと言うかもしれませんよ。まだ元旦那のこと、けっこう好きみたいなんですよね」
――ああ、子どもたちか、そう言えば会ったことなかった。
進は、今回のこの計画がリアルストーリーで調子に乗りすぎた無謀なことだったことに気付いた。気付いて恥ずかしくなった進はもう飲んだらやばいと思いつつもまたカクテルをぐいと飲んでしまった。
「あら、元気出てきましたね。そんなに慌てて飲んで大丈夫ですか」
芽衣子の言うとおりだった。進は間もなくまっすぐに座っていることが出来なくなって芽衣子にもたれかかった。
――いかん、リアストと逆じゃないか。
リアストと逆の展開になっていると分かってはいたが酔って進にはどうすることも出来なかった。
「多摩野さん、お酒、弱いんですか。それとも酔ったふり? 駄目ですよ、私、誘惑されないですよ」
――いやいや、無理です。誘惑するも何も、立てるかな。
「もうとっくにイルミネーションも終わっちゃったし、そろそろお部屋帰りましょうか」
「そうですね。でも歩けるかな」
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