第15話 部屋へ
進は、やっとの思いで伝票にサインすると芽衣子に支えられながら部屋へと向かった。リアストに書いたストーリーと全く逆の展開が続いていた。部屋へ着くなり進はベッドに横になって意識を無くしそうになった。芽衣子は、進の耳元で
「多摩野さん、私、先にシャワーしますね」
「は、はい」
――ああ、芽衣子さんがシャワーなのに、立てない、なんてことだ。ああ、動けない。
進は昨夜の睡眠不足もあってかそのまま気を失った。
それからどれくらいたったのか芽衣子の電話の声で目が覚めた。既にシャワーを終わったのかどうか分からないが、来た時と同じ服を来ていた。
「うん、うん、 はい、分かりました。で、ゆうやの様子は……うん、今からそっちへ行きます」
「あっ、多摩野さん起きました? ごめんなさい。ゆうやが高熱を出して救急車で運ばれたと連絡があったの。私、行かなきゃ。出かける時、少し変だったのよね。私がこんなことしてるからバチが当たったんですね。多摩野さん、ほんとごめんなさい。私、今から病院行きます」
「そうですか、それは大変だ。こちらこそぼくのリアストに付き合わせてすみませんでした」
「リアスト。リアストにもゆうやのこと書いてたんですか?」
「まさか、そんな事書いてませんよ。今日は、なんだかおかしいんです。全然リアスト通りにいかなくて」
「ですよね。いくらなんでも多摩野さんそんなこと書かないですよね」
「まあ、リアストのことはどうでも良いので、早くゆうやくんの所へ行ってあげて下さい。フロントでタクシーを呼んでもらいます。タクシー代は、ホテルにつけてもらってください。ぼくからフロントに言っておきます」
ひと眠りした進は、すっかり酔いが覚めていた。フロントに電話をして事情を話した進は、荷物を持った芽衣子と並んでロビーまで歩いた。このホテルは、ハウステンボスの園内にあるからか、タクシーは、芽衣子たちがロビーに来てもまだ到着していなかった。豪華な椅子もあったが、一刻も早くゆうやのところに行きたい芽衣子の気持ちを察して進も立ったまま待った。
「旦那さんも病院へ行かれてるんですか。今夜は、仲良くしてやってくださいね」
「そうですね。その方がゆうやも早く治るかもですね」
「気をつけて帰って下さい。何かあったら連絡くださいね。こちらも6億円入金されたらまた連絡しますね」
「だめですよ、多摩野さん、いざという時にお願いします。奥さんを大事にしないと駄目です」
そうこう言っている間にタクシーが着いた。
「じゃまた、お大事に。ゆうやくんによろしく」
進は、ゆうやくんに会ったことがないがそう言って芽衣子を見送った。
「またね、多摩野さん、ありがとうございます。さようなら」
芽衣子は、タクシーの中からも手を振って去って行った。
――あああ、行っちゃった。リアスト、今日はどうしたんだろう? いつもより念入りに書いたつもりだったのになぁ。
進は、ひとり残され、虚しさに潰されそうになりながら後ろを振り向くと、そこには、12時もとっくに過ぎて、暇そうなフロント係がひとり立って、こちらを眺めていた。
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