第13話 ホテルラムステルダム


  ホテルは、アムステルダムの街並みのようで焦げ茶色のレンガ色の壁に白い窓枠が映えていた。高さもさほど高くなく3・4階程度の棟が通りにそって伸びていた。エントランスをくぐると、そこには、通りとは別世界の白の空間が広がり、高い吹抜け天井、階段の壁に掛かる大きな絵画が高級感を演出していた。


 芽衣子は、それらや高いガラスの天井を見上げながら「わー」と声を上げた。チェックインを済ませた二人は4階の部屋へと案内された。部屋へ入った芽衣子は再び「わー」と声をあげた。部屋はとても広くて明るく、大きなベッドが二つ並べて置いてあった。ベッドの布団やカーテン、壁の模様は全てコーディネートしてあって同じ柄であった。柄には赤い花が入っていて、芽衣子にはちょうど良いぐらいであったが年を取っている進からするとやや申し訳ない、まるで新婚さんが利用するような部屋だった。


  芽衣子は、荷物を置いて窓から外を覗きながら


「すごいですね。多摩野さん、こんなところ、私、子ども産んでからは一度も来たことありません」


「見えないよね、二人の子持ちには」


 進には、改めて芽衣子が眩しく、彼女の若さを羨ましく思った。


「そんなことないですよ。もう子どものことオンリーでおばちゃん化してます。そうそう、今から歌劇観に行きませんか」


「歌劇?」


――あれ、そんなのリアストには書いてない。


ハウステンボスには数年前から歌劇団が結成され公演を行っているが進は今回の予定に入れていなかったのでリアストの小説にも入れていなかった。歌劇があること自体は知っていたが、あまりに唐突に芽衣子の口から出てきたので進は少し動揺した。


「い、いいですよ、夕食まではまだ時間があるし行ってみましょう。リアストには書いてないけど」


「リアスト? いやだ、ここに来ること、することも小説に書いているんですか?

それで、小説通りに事が運んでるんですか? 私が喋ることも」


「いいえ、喋る言葉とかは、だいたいしか合っていません。流れもだいたい合っているんですが、歌劇は、思いもよらなかったし、小説にも入れていませんでした」


「私におばちゃん化が始まっていることまでは想像出来ていなかったんですね。多摩野さんまだまだですね。他にどんなことを書いているんですか。まさか同じベッドに入ったりしてないですよね?」


「いや、まあ、そんなこと。モーニングを一緒に取ったとしか」


  芽衣子の鋭い指摘が進を納得させ、驚かせた。


ホテルを出て歌劇を堪能したふたりは再びホテルへ帰って来た。進は、歌劇の観覧者の年齢層を見て、芽衣子のおばちゃん化を改めて認めざるをえなかった。

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