第10話 オムカレーが美味しいソパン
病院から2キロぐらい坂を登った町境でもあり県境でもある辺りに、ここら辺で人気のソパンというオムカレーがとても美味しいカフェレストランがあった。進は、芽衣子が仕事を終えて、カフェまで行ける6時半に会う約束をして、先に行って芽衣子を待つことにした。美人三姉妹が経営するこのカフェ、ソパンは、道路下の崖の上にあって、玄関を入ると床がレジとカウンターがある中段と道路側の上段、崖側にある下段と三段階になっている。進は、暖炉がある下段の席で、もう暗くなろうとしている崖下の田園風景を眺めながら芽衣子を待つ事にした。お客は下段の一番奥に2人、道路側の上段に2人の2組が食事を取ろうと早くも陣取っていた。
20分ぐらい待っただろうか、芽衣子が白衣を私服に着替えてやって来た。
数日前までは、何処にいるかも分からず、会うこともできなかった芽衣子とここで待合せをして会うことが出来る。進はリアストに自分で書いていながらなんだか不思議な気持ちになった。しかも私服に着替えた芽衣子は相変わらず若くて可愛い。薄グリーンのセーターと茶色のスラックス、低めのパンプスを履いて黒のダウンジャンパーを着て、やや生活感を出している感じだった。2人の子持ちだからそのあたりはしょうがないところだろう。
芽衣子は、ニコニコしながら進が座っている窓際の席に近づいてジャンパーを対面の隣の椅子にかけてから座った。
―― 目が笑ってる。やっぱり、これは芽衣子さんが仕組んだのか?
進は、自分で書いたリアストの筋書き通りにほぼ事が進んでいるにもかかわらず、内心、誰かに操られているのではないかと不安を抱いていた。
―― ぼくのリアルストーリーも含めて芽衣子のストーリーに沿って動かされているかもしれない。思い切って聞いてみるか、いや待て、先ずは芽衣子の相談を聞かなければ。
「すみません。待ったでしょ?」
「いやー、全然、ほんの2時間ぐらいですよ」
進は、冗談で笑いながら答えた。
「いやいや、2時間前は病院にいらっしゃいましたよ」
――しまった、さすがは芽衣子さん、頭の回転の早い突っ込み。
「ああ、そうでした」
進と芽衣子は、整形外科で交わしていたようなそんなやり取りを先ず懐かしんだ。
「ごめんなさい。ゆうやとしゅうとを母に預けて来ました。母もあとで出ないといけないと言ってたから一時間ぐらいしかありません」
――充分です、今日のところはそのくらいで。
「いいですよ。旦那が子どもたちを引き取りたいと言い出して悩んでいるんでしょ?」
――あっ、言ってしまった。
「あれ、何で知っているんですか? 私言いましたっけ?」
「いや、あの、リアストではそんな事に……」
進は、言っていいのか悪いのか、もしや芽衣子がリアストのことを知っているかもしれないという確認もとろうと、やや戸惑いながら答えた。
「リアスト? なんですか、それ」案の定、芽衣子が食いついた。
――ああ、やっぱり知らないのか。
「あのですね、芽衣子さんがくれたアプリです」
「私が?」
「はい、芽衣子さんがくれました。たぶん、夢の中でしたが、朝になったらスマホに入ってました」
「私、あげてませんよ。そんなの持ってないし」
芽衣子は不思議そうに答えた。
「ぼくの一方的な芽衣子さんへの想いによる夢の中での話ですから」
「夢、夢なんだ、夢の話なんですね。私、多摩野さんの携帯知りませんよ。多摩野さんに送ろうとしても送れません」
芽衣子は安心したように答えた。
「ああ、そうか、そう言えば、ぼくも芽衣子さんの携帯知りませんね」
「たぶん、奥さんか娘さんがイタズラしたんですよ」
芽衣子が思いついたように言った。
「娘は、もう東京に就職しているし、奥さんはそんな面倒なこと絶対しないと思います」
進は自信たっぷりに答えた。
「じゃ誰が入れたんですかね? 多摩野さん、なんか変なサイトにアクセスして知らないうちに入れられたんじゃないですか」
―― うー、そうかもしれない。よく現実みたいな夢見るし。
「そうかもしれませんね。でも入っているのは確かだから使わせてもらいます」
進は、観念してそういうことにしとこうと思った。
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